ブルームーン

 「……月が青いね、赤い月も捨て難いが、こちらも神秘的だ。」

 とっぷりとした墨のような空に青い月があがっている。控えめに輝く数多の星々よりも存在感を放ち、だが冷徹な印象を持たせたその月は、 葦諱 (あしい)と詩歌(しいか)を惹きつけてやまない。

 「不吉の予兆かしら、それとも幸せの予兆?どちらにしても貴方には不幸なことなんでしょうけど」

 ちらりと隣を見やり、そう言う詩歌はもう一度月を見たあと、目を瞑り、歌うように紡ぐ。

 「ブルームーンといえばカクテルや色んな慣用句が有名よね。例えば"極めて稀"、"決してあり得ない"だとか。カクテルの意味としてなら"叶わぬ恋"、"出来ない相談"だったかしら。……皮肉なものね、どうせなら"奇跡の恋"だとか"運命"だとかにしてしまえばいいのに」

「……君としたことが、今日は随分とロマンティシズムなことを言うんだね」

 「それがどうしたの?なあに?私が浪漫を語ってはいけないのかしら」

 目を細めてくすくすと妖艶に笑う。葦諱はそんな彼女を呆れたように見、首を竦める。

 「まさか。君もたまには外見と一致した事を言うもんだと驚いただけさ。まったく、君を取り巻く生徒達に見せてやりたいものだ。そうしてこう言うんだ。純文学を愛してやまない、君達が憧れ、高嶺の花だと噂するお淑やかな彼女は、実は紛い物なんだぞ。……なんてね」

 シニカルに笑いながら葦諱は腰掛けていた縁側から立ち上がり、ちょっと待ってて。と言って部屋の中へと入って行った。
 その様子を見届けた詩歌は、また青い月を眺める。……この情景をもしすべからく書けてしまえたとしたら、実にいい文章(もの)が出来そうだ。なあんて、
 そのまま暫くぼんやりとしていると、とととと、と軽い足音が聞こえる。カラリ、と涼やかな音と共に現れた葦諱を見れば、その手元には美しい青色の入ったコップが2つあった。

 「ブルームーンだよ。そういえば家のもので作れるなあと思って」

 「たまには気が利くのね。素敵じゃない、ブルームーンを見ながらブルームーンを口にするなんて」

 「きっと君ならそう言うと思ってね、……乾杯」

 「わかってるじゃない。…乾杯」

 かちん、とグラスを合わせ、一口。じんわりと胸のあたりから熱を持ち始めるアルコールを楽しむ。
そうして、いくら眺めても飽きることのないその美しさにうっとりと酔いしれ、二人はもう一口ブルームーンを口にした。


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