鉄の箱の中には、酸素と人と、そして何割かの悪意が紛れ込んでいる。


ういいん。

 

 独特の音と、途中にがたごとと鉄の輪を跳ねさせながら、電車は走っている。
 入口の方の壁に背中を預けながら、文月渚(フミヅキナギサ)は溜息を吐いた。予想以上の人の多さに、多少の息苦しさを覚えたのだ。
 そうしてそのまま、踏ん張り疲れた足の位置を変える。体制を変えずに、かれこれ30分程立っているのだから、流石に疲れるというものである。

 少しして、首を動かすと、ぱきりと音が鳴った。小説をずっと読んでいたものだから、流石に疲れたのだろうか。ぐいっと背筋を伸ばして首を上げると、ぱきぽきと音がした。
 小説から目を離して上を見上げると、知らない人と目が合った。気まずい雰囲気に耐え切れず、さっと視線を逸らすと、これまた別の人と目が合った。
 電車に乗るのはこれだから嫌なんだ。それを言ったところで、どうしようもないんだけれど。


 ……さて、どうしようか。小説はこれ以上読む気が湧かないし、スマホも充電がなくなってしまっては困る。電車の中は何もないし、する事が無さ過ぎて暇だ。する事がないのだから、このまま目的の駅までじっと待っていることしか出来なかった。
 暫くぼんやりと景色を眺めていると、奇妙なものが窓から見える。反射して映ったのは、小さな子供達が大人のリュックサックを漁っている姿。それは道徳的な意味と世間的な意味でしてはいけないことだ。そう考えつつも、渚はその様子を傍観する事にした。

 ……なにしろ、大層暇だったもので。




鉄の箱の中には、酸素と人と、そして何割かの悪意が紛れ込んでいる。(変わらぬ事実には傍観を!!)


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