舞台のすきま

暗い赤色のカーテンが上がり、舞台には首に包帯を巻いた男が1人。中途半端に巻いた包帯は、ひらひらと男に纒わり付く。
くるり、くるりと回転した男は一礼してから、ば、と両手を広げ、語り部の役割を果たす。
「"日常が非日常だということを知ってしまった少年少女。"、"ネガティヴだった彼がとある本に出会い、そうして手を染める話。"、"何度も甦る彼女と執着する少年の日常。"、"異常な愛と執着と外と裏の言葉遊び。"そうして僕らの"嘘と偽りと記憶と神様の願いの話。"」
「……なんだか、随分と楽しそうに語るんだね」
男はその言葉ににこりと笑い、自嘲するかのように言う。
「そりゃあ、まあ。なんて言ったって、僕は"神様"なんて仰々しい役を頂いてしまったものだから、それっぽく振るわなきゃ、でしょう?」
「皮肉なものね。"神様"だなんて」
吐き捨てるように言う。役柄と違う?そんなこと知るもんか。
相変わらず男は表情を変えることは無い。けれども、心配することは無い、そろそろ飽きてこちら側へと来るはずだから。何故そう思うか。そんなこと、観客は知らなくてもいいんじゃない?
___なかなか降りて来る気配がない。……ああ、もう、いらいらするなあ。
ぐしゃぐしゃと頭をかき回す。
「おいおい、曲がりなりにも女子だろう、君。」
「五月蝿い。貴方が其処から降りてこないのが悪いのよ。もう私たちの出番は終わったのに」
「……まだ、終わってないんだよ。……ああ、もう!そんなに怒るなよ。ゲームじゃあないか」
うるさいうるさいうるさい!!!そんなこと位私だって理解しているんだ!でも終わったじゃないか!あの時!"真白 光"という名のジャーナリストは出番をこなして、舞台を降りたはずなんだ!!私の名前は" "!でしょう!!?
「ねえ!!!!!」
「……だから、終わってなんか、いないんだってば。台本の続きが完成していないだけで。だろ?その証拠に、君はまだ僕のところまでたどり着いていなかった。次の台詞までの時間が長いからって、この舞台が終わっただなんて、勘違いも甚だしいんじゃあない?」
「だったら!!!!だったら…………いつまで待てばいいのよ。私は、貴方みたいに長い間役に入り込むことなんて出来ないの。待てないのよ。私の中の"真白 光"消えてしまうのよ。ねえ、どうすればいいの?ねえ?」
まるで悲劇のヒロインみたいに顔を覆って蹲る。此処は舞台の上じゃないはずなのに、項辺りがとても熱くて、私にスポットが当たっている気がした。
瞼にじんと熱い感覚。ほとほとと涙が零れ落ちる。嗚咽を漏らさないように、必死に唇を噛み締めるとじわりと鉄の味がした。
「____……前を向け」
「…………へ、」
思わず、泣いていることも忘れて彼を見る。きっと私の口はぽかんと開いていることだろう。だらしない?気にしない。
「だから、前を向くんだ。そうして、毅然としていればいい。「私は真白光だ。大切な役柄の人物なんだ、どうだ、凄いだろう!」ってね」
彼はそう言って、こちら側へと降りてくる。観客席、終わった人達が来るべきところへと。そうして私の前に立って、慰めるかのように、もう一度にこりと笑った。それはまるでデパートのショーで出てくる様なヒーローみたいだと、私はぼんやりと思う。彼の周りはきらり、きらりと星屑が踊っていた。
ぐしぐしと服の袖で涙を拭った。きっと私の顔はぐちゃぐちゃだ。ひどく情けのない、それでいて無様な顔になっているんだろう。……それがどうした。今さっき、彼が言ったばかりだろう?毅然としていればいい。誇りを持つのだ。この役は大役で、それを演じている私は凄いんだから。
長時間座っていたことによって若干痺れる足を叱咤して、立ち上がった。そのまま、彼の目をしっかりと見る。そうして、私は笑みを作った。



「……ねぇ、完璧?」

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