プロローグ01(文月渚)

季節はじめじめとした暑さが襲う夏、8月14日のことだ。
大阪の某所。京都寄りの場所に住んでいるが故か、盆地特有の何処か籠るような暑さが襲う最中。今日も文月渚(フミヅキナギサ)は大学へと足を運んでいた。
周りを見渡せばどこもかしこもゆうらりと屍者のように歩いている人、人、人。皆一様に大学の方へと向かっている。何故こんなに暑い中わざわざ大学へと行くのか。それは、今日が終業式だからであった。
……まあ、実際の所、特に参加しなくても問題は無い。だが、この終業式に参加すると、もれなく特別活動の単位が貰えるのだ。特別活動の単位は卒業するためには必須。だからこそきっちり取得できるように、比較的簡単に特別活動の単位というものはとれるようになっているのだが、修学旅行などに参加しない、否。出来ない文月にとって、特別活動の単位が取得できる終業式は、必ず参加せねばならないものなのであった。
ぼんやりとした思考のままに、誰に向けるでもないナレーションを終わらせる。筆記用具と財布、あとは小さく折り畳んだエコバッグ。それらが入った、いつもより軽いトートバッグが肩からずり落ちそうになるのを防ぎ、だらだらと歩く。(ただしそう思っているのは本人だけで、周りから見れば背筋よく、ぴしりと歩いているのだが。)因みに、羨望の眼差しで見られる彼の頭を今占めているものは、十個九十八円の玉子だ。しかも、おひとり様いくつの制限と何千円以上購入で九十八円という制限がなかったのを、チラシにて確認済みである。販売開始時間は今から3時間後。終業式が終わってからすぐに向かえば十分に間に合う時間だ。
……まあ、まずは終業式に行かなくては。はあ、と大きく溜息を吐き、文月はきっ、と前を見据える。どうせなら早く行って、大学内のクーラーで体力を回復したい。そんなことを考えながら、外面は勇ましく、文月は決意も新たに、こころなしか先程よりも歩幅を広めて、大学の方へと再び歩き始めたのであった。

さて、文月が周りの人々に溶け込むようにしてふらふらと再び歩き始めた頃。

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