嘘吐きプレゼンター


 チチ、と小鳥が鳴く穏やかな森の中。
 自然の芸術と言っても過言ではないだろう木々は、鮮やかな緑を太陽に透かしている。人の手が入った形跡はないその森の中には、ただひとつだけ、森に溶け込むようにして佇んでいる木製の家が立っていた。

「……ねえ、シンタロー」
「ん?なんだ、マリー?」

 紅茶のたっぷりと入ったティーカップを持ち、マリーはそれを少し飲んだあとカップを机に置いた。なんとなくつられてカップを見れば、ゆらゆらと湯気があがっている。
そのままじっと湯気を見つめていると、マリーが「シンタロー、」とじれったそうに言った。どうやら、話を早く進めたいようだ。そんなに大事な話なんだろうか。
 カップから目を外し、マリーのほうを見やる。途端にぱあっと見るからに嬉しそうにマリーは笑い、話を続けた。

「今日、シンタローの誕生日でしょう?」
「ん?……ああ、そういえばそうだな」

 完全に忘れていた。マリーに言われなければ、今日もいつも通りの日常を送るだけだっただろう。……思い出しても、特に何をするわけでもないのだけれども。

「でも、それがどうかしたのかマリー?」
「ふふん。シンタローはそういうと思ってたよ!……あのね!私、シンタローに誕生日プレゼントあげようと思って!」
「おう」

 「ちょっと待っててね」……そう言ったマリーは席を立ち、後ろにある本棚から一冊のノートを抜き出した。ノートを胸に抱え、マリーは席に座る。

「お待たせ」
「おー」
「じゃーん」

 にっこりと笑ったマリーは、唐突に胸に抱いていた例のノートを差し出す。その意図がまったく分からなかった俺は困惑しきった目でマリーを見た。……きっと誕生日プレゼントなんだろう。流石にそれはわかる。
 いやでも、普通いきなりノートを差し出されても意味が分からないし、きっとノート単品をプレゼントするわけじゃないだろうし。期待の目で見ているマリーには悪いが、プレゼントの中身はまったく見当が付かない。残念ながらこれが何なのか当てることは出来ないであろう、きっと。ご期待に添えなくて申し訳ない。

「……ごめん、わからない」
「そっかー……正解はねー!……シンタローのために作った問題でした!」
「問題?」
「そう!えっと、"今から言う問題の中には嘘吐きと正直者がいます。この中からただひとりの正直者を答えなさい。"だって」
「ふうん。嘘吐きを当てるんじゃなくて、正直者を当てるゲームなのか。珍しいな」
「そうなの?」
「おう。大体は一人が嘘を吐いているからそいつを当てる。ってのが多い気がするな」
「へえー」
「興味なさそうだな」
「うん。だってどっちでもいいもん」
「まあな」

 ノートを立てたまま、マリーは俺を見て「そろそろ準備はいい?」と言った。口元は隠れていて表情は読み取りにくいだろう。嘘の吐けないマリーらしい手だと思う。

「いいぞ」
「わかった。じゃあ始めるね」
「おう」


 "あるところに、仲のよい9人がいました。ですが、ある日そのうちの1人が嫌われてしまいます。嫌われた1人を8人は嫌いました。理由を聞くと、8人はこう答えました。

K「Sが家の物を壊したんだ。確かパソコンだったな。めちゃくちゃに壊されていて、印象に残っている」

Ka「Sくんが壊したのは壊れやすい食器とかだったかな?全部壊されてて、本当に酷いと思ったよ。嫌われて当然だと思うね」

Se「Sさんが壊したもの?……うーん、そうっすねえ……確か、携帯だったと思うっす。……なんで?それはEさんがパソコンに避難してきたからっす。Eさん、凄く怒ってたんすよ……」

Ma「あ、あのね……Sは何も壊してなかったよ。……そういえば私、手が滑っちゃって、コップ割っちゃったんだあ……後でKに謝らなくっちゃ」

M「え?Sが壊したもの?家のものほとんどですよ!!全部壊されたり引き裂かれたりしてて……嫌われるのなんか当たり前ですよ!!私は絶対に許しませんから!!」

E「Sが壊したものですか?パソコンと携帯ですよ!!その所為でしばらくインターネットの狭間をふらふらする羽目になったんです!!謝ったって許しませんよ!!」

Ko「……Sが壊したのは、家にあった本だよ、多分」

H「Sさんが壊したもの?……電話だったと思うよ。それ以外は何も壊されていなかったし」


さて、正直者は誰でしょう"

「簡単だな」
「まあ、そう言わないでよ」

 簡単すぎて驚いたけど、それと同時に納得もした。そうだった、今日はあの日でもあった。マリーはなんて答えて欲しいんだろうか。正しい問題の答え?マリーと共に住むことになった日?








それとも……




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