探索と観察【転調】



「―のう、よかったのか?」
「――ああ」

「ならいいんだが……」
「ごめんな、アザミ。“欺く”使わせちまって」
「それぐらいのことはよい。…で、このまま向かうのか?」
「おう。どうせあいつら帰ってくるだろうしな」
「……そうか」

「―おい、本当にこの道であってるんだろうな」
「……多分」
「お前が「こっちの方がいいぞ」と自信満々に言ったんだろうが!!」
「あはは……」
「笑うな!」

「――はぁ…はぁ……」
「や、やっと着いた……」
「―…はあ。……ところで、ここの鍵は開いてるのか?」
「おう。開いてなくても合鍵持ってるから入れるぞ」
「そうか。―これでお前が鍵を持ってないと言ったらどうしようかと思ったぞ…」
「さすがにそんなに無責任なことはしねぇよ!!」

「――よし、入るか」
「おう」





 目が覚めると、そこは青々とした日光が漏れる森の中でした。…あれ?いつの間に寝てたんだろう、僕。思い出そうとすると頭がずきずきして「思い出すなよ!絶対だぞ!!」なんて言ってる様な気がしたので止めた。うん、なんとなく分かるから。安定の僕の扱いだったんだよねきっと。
 そんなことを考えながら、立ち上がって周りを見渡してみると、僕の目の前に一軒の家があった。森の中にあるのに違和感が湧かない。まるで森の景色に同化しているように感じるその家の扉の前には見覚えのある背中が並んでいた。走っていって、その内の1人の肩を叩く。

「―ああ、カノっすか」
「うん。そうだよセト。で、みんなしてどうしたのさ」
「……あー、」

 気まずそうに目線を逸らして頬を掻く。…あ、それシンタロー君みたい。―…じゃなくて!

「ちょっと!なにがあったのかぐらい教えてくれたっていいじゃん…」

 なんて不貞腐れてみたり。まあ、嘘だけどね。――能力がなくなった今でも、僕はよく欺くことが多い。別に、僕に限った話でもない、キドはたまに見失うことがあるし。セトは動物と会話しようとしたりする。能力がなくなったことを思い出してがっくりしてるけど。

「……だ」
「―え? キド、今なんて?」

 ぼそりとキドが何かを呟く。小さすぎて何て言ってるのかわからない。もう一回言ってくれないかなあ。

「ここが、シンタローが住んでいる家らしいんだ」
「―…え?」

 ばっと目の前の家をもう一度見る。壁に蔦が絡まり、扉に張り紙が張ってあった。

「“ただいま外出中です。御用の方は、後日お越しください”……?」
「ああ、今日は帰るべきだろうな」
「でももしかしたらもうすぐ帰ってくるかもしれないじゃないですか!」
『って妹さんが言い出しちゃいましてね』
「…まぁ、そういう訳だ」
「なるほどねぇ」

 やっとシンタロー君の場所がわかったんだ。だからこそこのチャンスを逃したくないんだろう。キサラギちゃんの必死な様子に皆もう諦めているようだ。確かに、今キサラギちゃんにどれだけ説得をしたとしても、意地でもここに留まり続けるだろう。

「だけどさ、」
「…なんですか。私は絶対にここで待ってますよ」
「ねぇ、キサラギちゃん。シンタロー君の外出先が、もしアジトだとしたらどうする?」
「えっ」
「カ、カノ!?」
「お、お前!!」
「そ、それ本当ですか!!? な、ならすぐ帰りましょう! ほら! 団長さんたちも早く!!」

 僕の言葉を聞いたキサラギちゃんが瞬間にキドたちを引っ張って帰ろうと言い出した。劇的な変化だ。いや、でもさー。別に、僕、外出先がアジトだったらどうするって言っただけでアジトであるとか言ってないからね?そこんとこ忘れないでよ。
 なんて考えながら走るキサラギちゃんのあとをついていく。周りは一面の森で、僕らが来た道はどこだったかも分からない。ふとキサラギちゃんが立ち止まっているのが見えた。

「どうしたの」
「いえ、なんでもないです」

 そうぶっきらぼうに言うとまた走り出した。…どうしたんだろう。気になってキサラギちゃんのいた場所を見てみると、そこに赤い文字で何かが書かれている紙が木に貼り付けられていた。目を凝らしてなんとか見ようと試みる。

「“今日、アジトに行く予定だ。入れ違いになっていたらすまない。シンタロー”…?」

 こっわ!!流石シンタロー君…やっぱり天才の名は伊達じゃないね……。思わず身震いをする。後ろを見ると、いつの間にかキサラギちゃんはいなくなっていた。多分また行き当りばったりで走っていったんだろう。キドが呆れた顔で僕を見ていた。マリーは木の根っこに躓いたりしてなかなか大変そうだ。ああ、コノハなんかぼーっとあらぬところを見ているんだけど。唯一の常識人であるキドとセトは期待できないかな。うん。分かってたよ。…このままだと、アジトにつくのは遅くなりそうだなあ。シンタロー君、待っててくれればいいけど……。
















「あいつら、遅くないか…?」
「大方、マリーが転んだりしているのだろう。焦ることはない」
「――…そうだな」
「このままだと今日の夕飯は無理そうだな……」
「―…多分そうだな。すまない」
「いや、その代わり、明日はお前が作ってくれよ?」
「当然だ。それなら仕込みも出来そうだな…」
「おお、本当か」
「ああ。…はやく、帰ってこないかなぁ……」


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