化物達のあいのカタチ【切欠】




「―召し上がれ」
「いただきまーす」

「んむ、ぁぐ……あれ? アザミ腕上げた?」
「うむ、いつもより新鮮さに気を使ってみたのだ。……美味いか?」
「ああ、すげぇ美味い。……明日は俺が作るんだよな……これより美味いもん、作れるかなぁ…」
「別に気にせんでもよい。お前が作ったものなら、なんでも美味しいからな」
「さんきゅ」

「ご馳走様でした」
「ああ、お粗末さまでした」

「明日はどうする? アジト行くか?」
「―お前は仕込みをしなくてもいいのか?」
「あー…明日は仕込みが必要ないものを作ろうと思ってな」
「なら行くか」
「おう」





 その日は生憎の晴天だった。嫌なほど眩み、滲む炎天下を僕たちは歩いていた。カゲロウデイズは攻略され、2年ほど経ったが、僕らは相変わらずアジトで暮らしている。如月ちゃんやエネちゃん達もいつも通りアジトへとやってきて、蛇の能力がなくなったこと以外は何も変わらない気がする。…いや、厳密には違うか。
 あのシンタロー君が1人暮らしを始めた。どうして一軒家なんか買えたんだって思ってたんだけど、どうやら引きこもっている間に株で稼いでいたらしい。いやはや、彼は本当に天才なんだなと改めて思ったよ。しかも、家でできる仕事も見つけて上手くいっているらしいし。まぁそれはともかく、一人暮らしを始めたシンタロー君はアジトへ来なくなった。本当に、まったく音沙汰さえもない。最後に顔を見たのは1年半前くらいだったと思う。どうしても会いたくて、シンタロー君の家に突撃しようと思っても誰も住所を知らない。おかしくない、これ。やっとそう考えるようになったのが半年前。
 その日から、僕らはシンタロー君のことを探すようになった。街中で赤いジャージを見たら、誰もが振り向く位に。探して、探して、探し続けて、ある日、エネちゃんが泣きそうになりながら連絡をくれた。シンタロー君を見つけたって。教えてもらった住所は案外すぐそこで。僕らは何をしてたんだって崩れ落ちそうになった。
で、今日。僕らはいつかのシンタロー君みたいにふらふらしながらシンタロー君の家へと向かっている最中なのであった。はい、回想終わり!!

『―ねぇ、知ってます?』
「何を?」
『実は、ご主人って一人で変なことしていた時期があったんですよ! 皆さんも疲れているようですし、休憩がてらご主人の痴態を見ませんか?』
「ちょwwww止めたげなよエネちゃんwww」
「へぇ、面白そうじゃないか。―よし、団長命令だ!今から休憩しつつ動画を見るぞ!」
「えっ、それって、いいのかな…?」
「いいんじゃないのかな、お兄ちゃんだし」
「シンタロー君のプライバシーはないのかな!?wwwwwまぁ僕も見るけどね!wwww」
『で、で、ですよねーwwwそれじゃあ早速再生しましょう!ぽちっとな!!www』

 笑いながら日陰へと移動する。蒸し暑い中、皆で肩を寄せてスマホの映像を見る。若干ノイズのかかったシンタロー君の声と、小さくもう一人の声が聞こえた。

「―ねぇ、これ、おかしくない…?」
『え…どうして…』
「どうかしたのエネちゃん?」
『おかしいですよ』

 空気が段々と重苦しくなってくる。ねぇ、どうしたの。画面の中にいるエネちゃんが緊張気味に口を開いた。

『だって、私さっき言いましたよね。ご主人が一人で何かしてるって』
「え、でも」
「もう一人…いるな」
『ええ、もう一人いるんです。でもこの動画を撮っていたとき、私にはもう一人の声も、姿も見えていなかったんです』

 皆が話している中、僕は動画を繰り返し見ていた。なんだろう、見れば見るほど、僕にはもう一人、黒髪の小さな女の子がシンタロー君のそばにいることがしっくりくるんだ。なんていうか、ずっと昔から一緒にいるのが当たり前だった感じかな。僕自身まったく信じてない言葉だけど、運命ってやつで二人はきっと結ばれているんだ。そう、僕が信じてやまないほどには二人が一緒にいることは自然に思えた。

「あれ? おばあちゃん?」
「マリー? どうかしたんっすか?」
「あ、セト。あのね、今、おばあちゃんがいたような気がしたの」
「おばあちゃん?」
「うん。赤いジャージも見えたから、シンタローも一緒にいるのかなあ?」
「! 赤いジャージっすか!? 本当に!?」
「えっ……う、うん」

 マリーとセトの会話を聞いて咄嗟に後ろを振り向く。…変わりもしない、ただの森だ。赤い何かが横切ったような気がしてそちらを向くけど、そこには赤い目をした蛇が一匹だけいた。舌打ちをしてキド達の方へ向く。何かを話しているキド達に向かって走って抱きつこうとして僕の視界はブラックアウトした。
















「―では、行くか」
「おう」


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