「風が呼んでる!」

言葉通り、風に引き寄せられるように走り出すバッツに、ふと元の世界で受けた講義を思い出した。

「……ふっ」
「めっずらしーなぁ、スコールが笑うなんて」
「…ジタン」

顔に出てしまったところを見咎められたらしく、スコールは即座に上がった口角を下げた。
ジタンはニヤニヤとスコールを見上げてどうしだんだよ〜と肘で脇腹をつついてくる。
スコールはその肘鉄(たぶん本気の重さでどついている)を受け流し、眉間の皺を深くした。

「……いや、何でもない」
「言えよ!気になるだろー?」
「何二人でイチャイチャしてんだよお前ら!おれもまぜろ!」
「うわっ!」

騒ぐジタンの声が聞こえたのか、当のバッツが二人目掛けて飛びついてきた。
衝撃で倒れそうになるが何とか踏みとどまる。
しばらく揉み合ったあと、スコールが笑ってたんだぜ!とジタンが告げ口をした。
途端に先程のジタンと同じく肘鉄(こいつのもかなり痛そうだ)を入れてくるバッツとそれに悪のりするジタン(お前ら兄弟か)に拳骨を落として黙らせる。
ああ、同じようなやりとりを昨日もした気がする。「何で教えてくれないんだよー!」
「そうだそうだ!つれないぞスコール!」
「楽しいことは分かち合おうぜスコール!」
「……(大したことないんだが)」
「お前が笑ったってだけで大したことあるから大丈夫!喋れよスコール!」

この二人に言わせれば、どうも自分は考えていることがいつも顔に出ているらしい。……そして押しに弱いらしい。
自分からすれば押しに弱いのではなく、二人のしつこさに黙りを決め込むことすら面倒になった(黙っていればいるほどしつこい)上での妥協なのだが、それって結局押しに弱いってことだろ?と反論されてからはその論争に持ち込むこともなくなり、ある程度まで粘られたら話すようになった。
そして今まさにスコールは抵抗を諦めた。
向けられた4つの目も、そろそろ話さないと話しづらくなるぞと言っている。

「……本当に大したことじゃないぞ」
「いーのいーの!」

全然良くない。 いつから解説がこのパーティでの自分の役目になったのだろう。
彼らに何かを説明する機会が増えてから、よく喋るようになったとセシルに言われた。
不可抗力だ。
しかし元の世界でも何かしら人に説明する立場にいた気がする。
……我ながら、この性格では気のせいかもしれない。

「走性って知ってるか?」
「知らねえ」
「何それ?ソーセージ?」

文明の発展が違うので仕方ない。
溜め息とソーセージ発言へのツッコミを飲み込んで説明を始める。
この用語を見た学問は確か――生物学だ。

「蛾は知ってるか?」
「おお、それは知ってる」
「知ってるぞ!」

他の世界でも同じ呼び名らしい。

「蛾は光に集まる習性があるだろう」
「ああ、焚火に寄ってくるよな」
「飛んで火に入る夏の虫ってやつか」

……同じ諺まであるらしい。

「走性は、生き物がある刺激…蛾の場合は光に対して、本能的に近くに行きたがったり逆に避けたりする性質のことだ。光に集まる蛾は光走性という…わかったか?」

記憶は曖昧だが、大きく外れてはいないはずだ。
正負の話をし始めると長くなるので割愛する。

「わかった!なるほど、あいつら馬鹿なだけかと思ってたけどあれ本能だったんだな」
「おれも馬鹿なだけかと思ってた!光そーせーなら仕方ない!」

すんなり理解してくれたことに安心するが、バッツとジタンは笑顔で声を揃える。

「で?」
「……何が」
「その走性ってやつを踏まえて、スコールはどうして笑ったんだ?」
「そうそう、それが本題だぜ」

……そういえばそうだった。

「……いや、バッツが」
「おれが?」
「……風走性だと思って」
「ぶっは!」

興味津々にこちらを見てくるバッツから目線を外しながら白状すると、ジタンが吹き出した。
その頭をひっぱたく。
抗議の声を上げながらもジタンは笑っていた。
バッツはしきりに関心しているようだ。

「おれが本能的に風に…」
「確かにな。スコールも面白いこと考えてるな!可愛いやつめ!」
「可愛いやつめ!」
「……黙れ」

可愛い言うな。

「照れんな、よ!」

よ!と同時に二人が背中を強く叩いてきた。
照れてない。全然照れてない。
あっ!とバッツが口を開く。
「おれもいっこ思いついた!」
「おお!何?」
「ジタンは女子走性!」
「ブフッ」

今度は自分が吹き出した。
顔を逸らして手で覆い隠す。
くつくつと肩を揺らすスコールと、どうだ!と言わんばかりのバッツを交互に見やり、ジタンは誰かさんそっくりに眉間の皺を作る。
しかしその目は少し笑っている。
わざとらしくいじけるジタンにバッツはにっこりと親指を立てる。

「何だよお前らオレのことそんな風に思ってたのかよ…」
「だっていつもレディが足りないとか言ってるしティナ見かけたら話しかけにいくし」
「だからってよぉ…おいスコールここ笑うとこじゃねーぞ!」

ジタンには悪いがスコールの笑いはおさまらない。
人間、何がツボかはわからないものだ。
その笑いがおさまりかけ、腹筋が痛くなってきたころ、今度はジタンがあっと声をあげる。

「おっしオレも思いついた」
「おー何?」
「フリオニールは光走性!」
「その心は!」
「ウォーリアにくっついていこうとする!」
「…っぶは!」
「…ブフッ」

今度はバッツとスコール両人のツボに入り、二人して笑い転げる。
ジタンは上手いこと言ったぜと満足気だ。
眩しく発光する光の戦士に憧れ付き従うフリオニールは、確かに「光」走性だ。

「それならおれも!オニオンナイトはティナ走性!」
「ブフッ言えてる!」
「……セシルは兄さん走性」
「スコールそれは…っぶは!」
「フリオニールってのばら走性でもあるよな」
「…ティーダが言っていたな」

ひとしきり笑って腹筋を痛めたあと、ジタンがふと思い出したように言った。

「スコールは何走性だろう…」
「そういえばそうだな…」
「……考えなくていい」

二人は肩を組んでスコールに背を向け相談し合い始めた。
何を言われるのやらと身構えていたスコールは、振り返って口を揃えた二人の言葉に、顔をほんのり赤くした。




「何だかんだ言って『俺ら』走性!」




俺たち走性児!








仮にも軍事専門学校に生物の授業とかなくても目を瞑っていただきたい。
走性の説明が間違っててもry 記憶が曖昧なのは私です。

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