変わりない日常 [ 3/50 ]


女子寮の自分の部屋。
寮の中とはいえここは自分の部屋である事に変わりはない。私は自分の好きな部屋で、その中でも最もお気に入りである窓際に腰かけていた。
窓の外を見るともう日が落ちてきていて、オレンジ色の夕日が辺りを自身の色に染め上げていた。外が静寂に包まれて行っている中、私はもう一度小さなテーブルの上に置かれた手紙を手に取って、最初からもう一度目を通す。

いくら認めたくないからと何度読み返しても事実が変わる事はない。思わずため息が漏れる。もう私に興味なんてないと思っていたのに、何で今更。
便箋にまた目を落とす。差出人はイギリスのお母様。内容は他愛のない世間話や私の学院生活などのなんら変わりない事。
そして、お父様がこちらに顔を出すと言う事だった。また溜息をひとつ。やだ、幸せが逃げちゃうなあなんて現実逃避をした。

まあ、いくら逃げようとしたことで事実は変わりはしないんだけど。分かってても逃げたくなる時ってあるもの。

「あーもう本当に嫌だよー!なんでよりによって今更なのー」

テーブルにぐでーっとはしたなく突っ伏す。だってしょうがないじゃない、2年前にイギリスの学院に進むはずだったところを従兄弟のいる日本に逃げて日本の学院に通い始めても何も言われなかったんだもの。
2年も経ったんだよ?2年!2年もほっといたくせに!

「本当に何で今更なのかなぁ……」

あー何か目に涙溜まってきた。うう、悲しい。
何が嫌だってお母様は構わないけれど、お父様だ。あの無駄に頭の固いお父様と話し合えって?やだやだ、何言ってもイギリスに帰って来いって言われるに決まってる。
あーあ。今週の土日はチームメンバーの零と夕介くんと朝陽くんと特訓の予定があったけど、キャンセルしなきゃ。



「というわけで土日駄目になっちゃったの。本当にごめんね!」

自分の顔の前でぱんっと両手を合わせて3人に頭を下げる。家族の事なら仕方ないって3人が笑って許してくれた事にとりあえず一息。

「そういえばレイラってお嬢様だったんだね」
「うん、一応名前はそこそこ知れてるところなんだけど……」
「お転婆すぎてすっかり忘れてたわ」
「夕介くんは喧嘩売ってるのかな?」
「キノセイダヨ」
「そういえばレイラって、何でこっちの学院に来たの?」

朝陽くんにそう言われて、うっと詰まる。
土日に両親がこっちに来るから特訓には付き合えないとは言ったけど理由は言っていない。
ていうかまず喧嘩してる事すら話してないし、うん。興味持つのもしょうがないんだけどね。

「えーっと、実は今とあることでお父様と喧嘩してて…本当はイギリスの学院に行くはずだったところを無理矢理家出して、こっちに来たの」
「ん?待て。それで両親がこちらに来るんだろう?と言う事は……」
「うん、多分っていうか確実に私を連れ戻しに来るんだと思うんだ」
「え」
「それは…困るね」

どうしよう…。と私の前にいた3人が顔を見合わせてなにやら唸りながら会議に突入してしまった。うーん、そんなに悩まれても私は帰る気なんてないんだけどなぁ。
真剣に悩みだしてしまったチームメイトに思わず困ったような苦笑を漏らしているとふと朝陽くんが顔を上げた。
顔は名案!とでも言いたげに明るい顔をしていて、とても失礼なんだけれども正直嫌な予感がぬぐえない。ていうか嫌な予感しかしない。

「ボクらもついていってレイラのお父さんを説得するとかどうかな!」

うん、いい案だとは思うけれどとても破天荒になる予感しかしないよ私は。
思ったけれど純粋な目を汚すのも気が引けて、賛成していく皆にそうだね、と相槌を打つことしか叶わなかった私を誰か叱ってください。

うーんでも、皆が上手くいってくれたらお父様も諦めてくれるかなぁ。ていうか皆がついてきてくれるなら、私も何の事で喧嘩してるのか話さないといけないよね。
とりあえず、と放課後私の部屋で話し合う約束をこじつけて、この場は解散した。お昼休みはまだあと数十分時間がある。
うーん、ちょっとたまには彼の顔でも見に行ってみようかなぁ…あ、バイトのシフトも入ってたから隼人さんにも断りを入れておかなくっちゃ。

脳内でやる事やらなきゃいけない事をとりあえずまとめ上げてから、とある教室へと向かう事にする。途中で夕介くんが安定してレティちゃんに怒られているのが見えたけれど写メるだけで見ないふりをしておいた。

お昼休みなだけあって普通の学校みたいにわいわいと騒いでいる姿を見ていると、ここは本当に世間を騒がせている魔物を殺すための訓練をしている場所なのかと錯覚を起こしそうになる。

目当ての教室にたどり着いて、開いたドアの隙間からそっと教室の中を覗く、とお目当ての人物はすぐに見つかった。
ガラリと扉を開けて、後ろからばれないように近づく。

「わっ!」

と驚かすように声をかけながら肩を掴むとその人…劉院くんは「うわっ!」と声を上げてすぐに後ろを向いた。

「って、レイラさん!?」
「こんにちはー、時間が空いたから来ちゃった」
「来るのは良いけど毎回そうやって俺を驚かせるのやめてくださいよ…!!」
「ふふ、劉院くんったら反応が良いから、つい。ね?」

何度やっても慣れてないように反応してくれるからとても楽しいんだもの。

私がそう言うと劉院くんは半ば諦めたようにはーっとため息をついた。幸せ逃げちゃうよーなんて、昨日散々言ってた私が言えた台詞じゃないんだけどね。




(こんな日常を壊されるなんて、たまったものじゃない!)

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