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「ああ言った矢先だが数が多いな、二体はこちらで処理をする。あとはそちらだけで対処してみせろ!」

 零の指示を聞きながら、各々が未だ取り出していなかった己の得物を取り出す。
 竜斗は瓶のコルク栓を外し、透真はすぐにしゃがみ込んで草を掻き分け土に触れる。
 沙綾は瞬時に爪を変化させると、観月を庇う様に、且つ戦う準備をしている竜斗と透真の邪魔をさせないために魔物を牽制していた。
 あれから少し歩いた後、森の異変を感じてか、侵入者を待ち受け排除するために待っていたらしい種類の混じった魔物六体が八人を包囲するように現れていた。
 透真が準備を終える頃にはチーム名決まらんの四人は既に行動を開始しており、戦闘が始まっている。向こうが引き受けた三体は今まで出てきた種類とはまた違ったもので、動きからしてどうやら今までの魔物よりも多少手強いもののようだった。

「二体は俺が引き受ける。あとはお前らで協力すればどうとでもなるだろ」

 自分は何の問題もない、といった様子で竜斗が透真と観月、沙綾に指示を飛ばす。
 三人がそれに頷き、透真は握っている双剣を握り直した。一度将矢の教えの元作り出した成果によって「ちゃんとした切れる剣」は安定して作れるようになったものの、双剣としては未だにその境地に至れていはいない。
 それぞれ両手に持ち、二本振るうには未だに少し大ぶりなそれを、いつも習ってきたものと同じように構える。
 少しずつではあるが、理想に近い形にはなってきている。とすれば、あとは時間と経験が解決してくれるのは間違いないだろう。

「俺が前に行く!」

 沙綾と観月にそう声をかけ、透真は左足を軸に力を集め、地面を蹴った。
 沙綾の牽制のおかげもあり、一度透真達を囲んだ状態から動いていなかった魔物のうちの一体との距離を瞬時に詰め、振り上げていた右手を振り下ろす。
 透真が来ることに警戒していたのであろう魔物は、それをやすやすと避けた。しかし、透真の武器は右手に持つ剣だけではない。
 上半身を回転させ、右手を振り下ろした勢いをそのまま殺さないように、右足に体重を乗せたまま、今度は左足を踏み出して左の剣で魔物を切りつける。
 浅いな。見るまでもなく透真はそう思った。剣が触れた感覚はしたが、それが致命傷に至っていない事が手応えで分かり、無意識に透真の眉間に皺が寄る。
 元々の目標とは違う魔物──おそらく目標の魔物の方が容易く倒せるものではあるが──とはいえ、ここでこんな小さい魔物に苦戦はしていられない。
 透真はそう判断すると、浅く攻撃の入って少し怯んだ魔物と更に距離を縮めた。もちろん助走の勢いは殺す事なく、また右手の剣で斬り付けると、今度こそやった、という確信があった。
 透真の確信が裏切ることはなく、透真が繰り出した斬撃で宙に浮いた魔物は、そのまま
塵になって消えた。
 残り一体は、と透真が振り返ると、沙綾が変化させた爪で魔物を一突きにしたところだった。
 沙綾の爪で貫かれた魔物がそのまま塵となって消え去り、沙綾の後ろに控えていた観月が一人安堵の息を吐く。

「なるほどな」

 続いて聞こえてきた声は零のもので、声のした方向を透真が振り返ると、零は一人納得しているように頷いているところだった。

「今ので大体は把握できた。早田はレイラの傍にいると良い。その方が入江も問題なく動けるだろう」

 零の話に、竜斗が頷き、透真も相槌を打った。確かに観月を庇う沙綾が動けなくなる事よりも、支援型であるレイラと観月をセットにして、レイラに観月を守ってもらった方が前衛の火力は増えるだろう。
 よろしくね、と観月に声をかけるレイラに観月がよろしくお願いします、と返すのを耳に挟みつつ、透真は出した武器をどうしたものか悩み、とりあえず邪魔にならない程度に小さくした。
 先程よりも何回りか小さくなった自身の双剣を握りながら、再び歩き出した零の後ろについて歩き出す。
 零を疑っているわけではないが、実践演習が開始されてそれなりに時間が経っているというのに、いまだに目標の魔物には出会っていない。
 少し焦りを覚える中、それでも先輩であるチーム名決まらんの後ろを歩いていると、ふと視界の左端の植物が動いた気がした。
 咄嗟に小さくしていた剣を元の大きさに戻しながら左手を引き、振り払う。
 ほぼ直感と本能に近いものだったため、何かを斬り払う感覚に遅れて目線をそこにやると、それは今回の演習の目標とされる魔物だった。
 ぱっと見は普通の植物だが、近づくと本性を現し、茎の頂点についている大きい実がのっぺらぼうのように口だけを大きく開き、噛みつくなどして襲ってくる食虫植物のような見た目をした魔物だ。
 念のため、茎から切り落とされ、まだ少し動いている魔物の……頭、とでも形容すればいいだろうか。実に双剣を突き立てる。
 魔物は一度ビクンと大きく震えると、動かなくなった。

「着いたか」
「着いたなあ」

 零の一言に、夕介が呑気に返す。大方予想はつくが、それでも何も知らない黒白からしたら分からない話題に透真が首を傾げていると、夕介と目が合った。

「ここ、俺らが二年の時に組んだチームが教えてくれたとこなんだけど、まあ分かる通り今回の目標の魔物が多い場所なんだよね」

 透真に笑いながら説明した夕介が、くるりと透真に背を向け、夕介の向いた方向から火柱が上がる。
 ギャアアアと聞こえる悲鳴に、夕介がまた透真に向き直った。

「まあその分奥に来てるから魔物も多いんだけどな!」

 笑って言う事ではない。断じてだ。
 笑って言う事ではないが、透真からしたら願ったりかなったりでもある。ここで普通の人たちよりも経験を積めるというのは嬉しい事だ。

「各自戦闘用意。朝陽はいざという時は支援型の二人を守ってやれ」
「りょうかーい!」

 まるでその零と朝陽の声を合図にするかのように、先程まで大人しくしていた魔物が一斉に動き出した。透真は左手に持つ剣だけでなく、右手に持っていた剣も元の大きさに戻し、まず近くにいた目標の魔物をまた茎から切り落とした。
 近くに来た狼型の魔物が噛みつこうと飛びついてくるのを右手の剣で受け流し、後方へ行った魔物を追うために体を反転させると、その勢いを利用して左手の剣を振り下ろす。
 魔物の首付近に当たり、確かな手応えがすると同時に魔物は動かなくなった。塵となって消えていくのを横目に、また次の魔物に取り掛かる。
 ふと、レイラとその近くにいる観月が視界に入った。レイラは零達チーム名決まらんだけでなく、チーム黒白の三人が魔物を倒しやすいように植物で動きを止めている。
 その近くにいる観月も同じようにサポートはしようとしているのだろうが、視線がせわしない。おそらくどの魔物を狙うか悩んでいるんだろう。
 と、観月の背後で影が揺らめいたのが見えて、透真は咄嗟に声を上げた。

「観月後ろ!」

 透真の声を聞いた観月が振り返ると、そこには先程からよく見かける狼型の魔物が観月に飛び掛かるところだった。
 透真が駆け付けようにも、少し距離的に離れている。観月を無傷で助けるのは無理だろう。
 しかし、観月に飛び付いてきていた魔物が観月が振り返った瞬間地に落ちた。もがくように動き、再び立ち上がる魔物の動きは自分の体が重いような、鈍い動きをしている。
 観月の能力だ。
 そう透真が察して、それをチャンスだと動くよりも早く、立ち上がった魔物が重石を外したような素早い動きで観月から離れた。能力が解けたのだろう。
 魔物が再び観月に体を向けたその時だ。急に魔物の足元にいる植物がしゅるしゅると動き始め、素早い動きで魔物を縛り上げる。
 今だ。透真が走り寄り、助走の勢いのままに右手に持つ剣を振り下ろす。魔物は真っ二つになり、消えた。

「ごめんね観月ちゃん、大丈夫?」
「だっ、大丈夫です、ごめんなさい私こそ……」
「無事なら良かった。透真くんもありがとう」
「おう」

 観月に優しく声をかけるレイラに微笑まれ、それに笑みで返して再び前に出る。
 無意識に透真の目線が竜斗を探し、何をしているのかと竜斗の姿を見つけた時だ。

「ここはあらかた片付いたな。先に進もう」

 零の提案に竜斗から透真の興味がそれる。零は懐から取り出した布で一度刀を拭うと、その刀を鞘に収めた。
 それに竜斗が頷き、他の六人も頷く。
 少し走るぞ、という零の声の元全員が走り出した。
 今更で当たり前ではあるが、普段は人が入る事のない森の中だ。実践演習などは定期的に行われていても、人の手が入らないこの森は植物達がボスと言っても過言ではない。
 好き勝手に成長した植物は生き物の進路を塞ぎ、我が物顔でそれぞれが縄張り争いを繰り広げている。
 そのため足場は悪く、歩く分にはそんなに問題がないといえど、小走りでも走るならば様々なところに気を配らねば植物に足を取られたり、伸びている枝に頭をぶつけたりしてしまうだろう。
 走りながら、自分の体を邪魔される事なく走り抜けることのできる進路を見つけながら走っているために、そういった場面で経験の差は出てくるものだ。

「きゃ、あっ!?」
「観月ちゃん!」

 少し離れた後方から聞こえた観月と、レイラの声に咄嗟に透真は足を止め振り向く。いつの間にやら一番後方を走る観月とレイラとはそれなりに距離が出来ており、どうやら観月はバランスを崩して転んだようだった。

「大丈夫?」
「大丈夫、です……すみませんお恥ずかしいところを……」
「気にしないで、こういう時は助け合いだもの。まだいける?」
「はい、まだ……まだいけます」
「無理はしないでね。零、大丈夫よー!」

 レイラが観月に手を差し出し、観月は手についた泥を払うとレイラの手を取って立ち上がった。植物に邪魔されてよくは見えないが、遠目から見ている分にはどうやら目立った怪我はない事に透真は安心する。
 レイラは観月の体に怪我がないか一通り確認すると、一番前で足を止める零へと声をかける。零はレイラの言葉に頷くと、また前に走り出した。
 零に続いて透真、観月、レイラ以外の五人も再び走り始める。透真は少し観月の様子をうかがっていたが、服が泥で汚れても折れていない瞳を見て、前の五人の後に続く。
 再び走り始めて、少し経った時だ。
 零の足が止まり、零に追いついたところで全員の足が止まる。

「あれは……五十嵐か?」

 零の見ている方向へと視線を向けると、他のチームが見えた。危険区域はそれなりに広い敷地であるため、奥の方に行くとあまり人と会うことはない、といつだかに志織が話していた事をふと思い出す。
 おそらく零の知り合いなのだろう。しかし、どこか様子がおかしいように見える。透真がよく目を凝らすと、緑の中に明らかに今回の実践演習で出ていい大きさではない魔物が見えた。
 透真がそれに気付いて零の方を見ると、先程まで前にいた夕介の姿が消えていた。
 慌てて姿を探すと、離れた場所に夕介の背中が見えた。

「あのバカ……ッ!あのチームは私達が加勢する。お前達は周りの魔物の処理を頼む」
「ああ、頼まれた」

 先程零が確認した五十嵐というチームに加勢しようとチーム名決まらんの三人が走り出す。
 レイラは三人と共に行こうとして、観月を気にするように一度振り向くと、観月に気を付けてね、と一言だけ告げて三人の後を追った。

「緊急事態だ。俺らはあそこで戦う連中の邪魔をさせないように雑魚を叩く。数が多いから散らばって動け。早田は入江とだ」

 大きい魔物に獲物をあやかろうとしているのだろう、周りから先程切り伏せてきたものと同じような種族の魔物が多数姿を現し始めた。
 竜斗がそれらを着々と牽制し、持ち前の槍を華麗に扱って仕留めながら、冷静さは失わないままいつもよりも早口で指示を出す。

「観月はアタシから離れるなよ」
「うん」

 沙綾の傍に立ち、緊張した面持ちをする観月を横目に、透真は自身へと飛び掛かってくる魔物を横に凪いで切り伏せる。

「無理はするなよ!」

 竜斗の声を皮切りに、元の位置から透真は左へ、竜斗は右へ。沙綾と観月はその場にとどまる。観月は沙綾よりも少し後方に控えた。
 透真の耳に届いた竜斗の最後の言葉は、いつもとは違いどこか熱が入っているような気がして、それだけが透真の中に残る。
 そういえば、竜斗のチームが解散した理由は知らないな。と透真の脳裏をかすめたものは、二体同時に襲い掛かってきた魔物によって頭の隅に追いやられていった。
 咄嗟に一体は切り伏せたものの、もう一体の攻撃は避けきれずに左腕を掠める。ぴりっとした痛みが走ったが、気にしていられる場合ではない。
 自身の背後に行った魔物の二撃目を両方の剣で受け止め、そのまま斜め十字に腕を開くように振った。肉を切るような感触と共に、魔物の姿が塵になる。

「っまだまだぁ!」

 透真の咆哮に応えるように、またもう一体の魔物が姿を現す。獲物を食らおうとギラギラとした視線を飛ばすそれに、透真は不敵に笑うと、またも地面を蹴った。

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