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 櫻井の出した開始の合図と共に、一斉にそれぞれのチームが危険区域の中へと走り出した。

「まずは他のチームと獲物が被らない様に奥まで行く!」

 透真たちチーム黒白もチーム名決まらんのリーダーである零の掛けた声に習って、チーム名決まらんの後について森の中を駆け出す。
 段々とほかのチームがそれぞれの方向へばらけて進んでいく中、いくつかのチームは透真たちと同じ方向へと進んでいく。
 他のチームを横目に、透真は先輩でもあるチーム名決まらんの一員である朝陽をいぶかしげに見ていた。
 というのも、透真たちより年下で、ゴシックロリータを着ているという動きづらそうな格好をしている朝陽を、心配しての視線だったが、当の本人の動きは何の問題もない。
 見た目とは裏腹に身軽に動く。むしろひらひらと艶やかに舞うスカートに目を奪われそうになるほどだった。
 観月より遥かに上どころか、紗綾と同じか、それ以上と言える動きだ。
 八人はそのまま数秒走り続け、ある程度まで来ると零の号令で一度停止した。
 透真がちらりと観月を見る。
 透真としては観月の体力が少し心配である故の行動だが、体力づくりなどやってきただけあって、入学時よりかは幾分か心配せずとも大丈夫そうだ。
 零は一度注意深く周囲を見渡し、何もいない事を確認すると、改めてチーム黒白の四人と向き合った。

「ここからは歩いて探索する。ついでに先ほど口頭で能力を聞いたが、魔物を探しつつ実際に能力を見せてもらえた方がこちらとしては助かる」

 その方が中型の魔物との戦闘になった時に円滑に進みそうだからな。
 最後に一言そう付け加えると、零は「行くぞ」とだけ言い、前を向いた。
 その零の横を夕介が歩き、二人が周囲に注意しながら前に進み始める。
 その後ろに朝陽とレイラが行くのかと思ったが、二人はそっと四人に前に行くよう促した。
 それに従って、竜斗と透真、観月、紗綾の順で零と夕介の後に続く。朝陽とレイラは四人の後ろをついてきた。

「竜斗くんや透真くん達は問題ないと思うんだけど、一応ね。後ろから襲われる事もあるから」
「あー、なるほど……」

 先ほどの自分の行動の説明をするレイラに透真が一人納得する。
 レイラの補足が終わると、前を歩いていた夕介が歩きながら六人の方へ振り向いて口を開いた。

「で、能力だけどさ!観月ちゃんと紗綾ちゃんの能力……あー、重力操作と毒、植物使いだっけ?って人の前にまず俺か?俺の能力は──」

 夕介が器用にも完全に体を反転させ、所謂後ろ歩きをしながらチーム黒白──主に女子二人だが──に向けて、一人で話していたが、そこまで声に出して、ふと動きを止めた。
 いきなり夕介の雰囲気が変わり何事かと思った透真だが、零も止まったのを見て、様子を察する。おそらく魔物だろう。
 しかし、透真も魔物の気配を探ってみたが、いまいち掴めない。

「出たか?」
「ん。まあほら、丁度良いっしょ」

 だが零と夕介の会話からして魔物が近くにいるのは明らかなようだ。透真が竜斗の顔を盗み見ると、竜斗は気配自体は感じているようだった。
 そこは経験の差というものもあるだろう。しょうがないのかもしれない、しかし透真は竜斗に気付けていて自分では掴みきれていない事に一人もどかしさを抱える。
 気配までは分かっても細かい場所までは感じ取れていないのが夕介にも通じたのだろう。夕介と透真の目が合うと、夕介はふ、と笑った。

「まぁ分からないのも無理ないよな、俺割とこういうの敏感な方だし。で、話戻すけど」

 魔物の気配を感じているというのに、微塵もそんな雰囲気を感じさせない夕介が、そう言うと同時に、右側前方にいきなり火柱が上がった。
 その火柱が上がると同時に、ギャアアアアアア!という悲鳴が聞こえてくる。
 瞬間、先日の休みの時に襲ってきた魔物よりも大分小ぶりな魔物が飛び出してきた。しかし、誰を襲うわけでもなく、自身の体についた炎の熱さに身悶えると、やがて大人しくなり、塵となって消えた。

「大体こんな感じ。まぁ後はこんな事もできるけど」

 夕介が自信げに笑いながら、右手を上げると、その右こぶしを守るようにぼうっと炎がともった。それを夕介は軽く振って炎を消す。

「まとってるものは燃えないけど裏山だと山火事起こす可能性あるからアレなんだよな」
「前回のような事はまっぴらごめんだからな」

 苦笑いする夕介に、先ほど夕介が倒した魔物の跡を見ていた零がぴしゃりと返す。

「はいはい気を付けますよー」
「前回何かやらかしたんですか?」
「観月ちゃん言い方が辛辣……いや前の実践演習時に火柱祭りしたら引火しちゃって、後は……な?ていうか敬語いらないって、仲良くしよう仲良く!」
「え、あ、はい……じゃなくてうん?」

 ぐいぐい押すように来る夕介に、観月が少し気後れしながらも、咄嗟に出した返事を訂正すると夕介は満足そうに頷いた。
 和気藹々とした雰囲気で進むのは問題ないとは思うが、透真たちこちらのチームとしてはそういった雰囲気に敏感な人間がいるだけに、なんとなく透真は気まずい。
 本日何度目かも分からないが、隣の竜斗の課を盗み見ると、眉間に皺を寄せて夕介を見ていた。
 何を考えているかは分からない。そして竜斗が何を経験してきたのかも透真は竜斗ではないから分からないが、それが苛立ちだけでない事は確かそうだった。
 ふと前を歩いていた夕介が後ろである観月を見るのをやめて、前を向いた。

「まぁ、流石に今の一体だけで終わるわけがないよなぁ」
「場所は」
「前方」
「そうか。とりあえず黒白の連中は動かなくていい」

 夕介と零のやり取りが終わり、零がチーム黒白の四人にそう指示を出し終えた瞬間、それは待ち構えていたかのように、今まで穏やかだった前方の草むらがガサガサと大きく揺れ始める。
 明らかにこちらに進んでくるような揺れが続き、少しするとその正体が瞬時に草むらから飛び出してきた。一、二、三。三体。大きさは先日将矢が逃がし、透真と観月を襲ったものよりも少し大きいくらいだ。
 しかし、魔物の種類は違っていた。先日の魔物は木がうごめいているような魔物だったが、今回出てきたものはどちらかと言うと狼に似た獣のような魔物だった。
 透真たちの前を歩いていた朝陽がまず動いた。先程までの可愛らしい姿とは一変し、自身に向かってくる魔物に対して足を開き腰を落とす。それと同時に上半身を回転させるように引かれた右の拳に炎が灯り、朝陽自身の闘志を表すように、揺らめいた。
 朝陽はそのまま左足を軸に、上半身の捻りを戻して回転力を生かし、右拳を突き出す。朝陽の方へと向かってきていた魔物の勢いも加わり、魔物は悲鳴を上げるまでもなく朝陽の拳を炎を受け、元来た方向へ吹き飛び、空中で塵と化して消えた。
 これで一体目は片付いた。残るは二体だ。
 透真が先程認識した三体の内の二体目に目を向けると、零が丁度魔物の初撃をかわしたところのようだった。
 かわされた魔物は、零へ追撃するよう、その体を宙に踊らせるために、上半身を低くし強靭な後ろ足を使っての跳躍を試みる。
 しかし、それは叶わなかった。魔物が前足を上げ、後ろ足が地面を蹴るよりも早く、零は腰に差していた刀に右手を添え、抜刀すると同時に魔物の体を二つに引き裂いた。
 所謂居合いと呼ばれるものだろう。早い。魔物はその場で崩れ落ち、動かなくなった。
 二体目の魔物が塵と化すのを見届ける前に、透真の視界の端で緑色が躍った。
 何事かとそちらに目を向けると、そこには魔物が植物に絡めとられていた。魔物を縛り上げる植物は透真たち八人の足元に生えている草だが、長さはそれの何倍も長く、まるで草自身が意思を持つかのように、ぎっちりと魔物を固定している。

「零」
「分かっている」

 植物を操っているのは先程緑の能力を持っていると言っていたレイラのようだった。レイラが声をかけると、零は先程抜き放った刀を横に凪いだ。
 植物に縛られ、動きを取れなくなっていた魔物は植物ごと切り裂かれ、その場で地面に落ちる。やがて、先程の魔物たちと同じように塵となって姿を消した。
 魔物が片付き、夕介が零に対して頷いて見せると、零は一息ついて刀を鞘に戻し、透真達に向き直った。

「私達はこんなところだ。前に出る私や朝陽、夕介はお前達といきなり連携を取るのは難しくても、レイラが支援できる。頼ってくれていい」
「ああ、その言葉に甘えさせてもらおう」

 零の言葉に竜斗が返し、零はそれを聞くと先に進むぞ、と全員に声をかけ、先程と同じ順番でまた森の中へと進み始めた。

「次に魔物が出た時にはそちらだけで対処してもらう」

 前を進む零が小刀で邪魔な枝を払い落しながら言う。この危険区域は、こういった試験事でなければ人が踏み入ることはないため、獣道以外では植物が我が物顔で育ち、普段はいない侵入者を拒んでいた。

「いざというときはレイラがいつでも動けるようにするから心配はいらない。短い時間だが、次の縁というものもある。出来るだけ味方の戦い方は知っておきたい」

 無口な方だ、というのが零に対する透真の印象だったが、そうでもないらしい。必要な事であるのは確かだが、中には必要な事でも無言を貫く人もいる。
 そんな中でこうして理由まで補足しているあたり、見た目通り厳しいだけで無口なわけではないのだろう。

「ああ、構わない。早田は無理して前に出るなよ」

 釘を刺すような竜斗の言葉に、釘を刺された観月は身じろいだ。

「……うん。ごめんね」

 謝罪は誰に対してか、理由は足手まといな自分が嫌だからか。観月がここ数日考えている事に関して理解はしたが、何を考えているのかまでは透真は観月ではないから分からない。
 観月から目線を外し、緑一色で染まった森の奥を見る。
 観月がおそらく感じているであろう悔しさや、申し訳なさを潰すように、先程よりも力の入った観月の拳には、透真は気付かないふりをした。

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