過保護なティータイム [ 46/50 ]


「あれだよな!月女と雄杜はカホゴ?ってヤツだよな!」

 授業のない休日の昼下がり。
 午前中にチームでの特訓を終え、休憩をしようと学院内にあるガーデンテラスの一つのテーブルを陣取り、腰を落ち着けたところで、チーム紅茶の一員である公島弘夢が思い付いたように人差し指を立て、そう言った事により、同じくチームの一員である加川月女と十河雄杜の動きが止まる。

「わっ!私は、お付きとしての働きをしてるだけです!」

 少し呆然と弘夢を眺めていた月女だが、やがて意味が分かったのだろう。咄嗟に肩を揺らしながら、大きめの声で反論する。
 対して、雄杜はそう言った月女と弘夢を眺めた後、一人首を捻った。

「過保護、ですかね?当然だと思ってるんだけど」
「だってメリアってお嬢様とは言えオレより年上だろ?オレでも出来る事なのにメリアはやらせてもらえてない事多いよなーって。これアレだろ?カホゴってやつなんじゃないの?聖璃から聞いた!」

 言い切ると弘夢は少し誇らしげに胸を張った。
 話に出ているメリアというのは本名エメライン・コリンナ・メイスン。イギリスの、日本では馴染みのない貴族で、次期当主の少女であり、今現在集まっている弘夢、月女、雄杜の三人とメリアで構成されているチーム紅茶のリーダーだ。

「それはメリア様が自由だからです!あの方はメイスン家の次期当主であるにも関わらずどんな危険な事にも挑戦しようとするから……」

 ちなみに席を陣取る時に何かを思い付いてふらりといなくなったために、この過保護であるかどうか、という話し合いの場にはエメラインの姿はなく、月女も雄杜も特訓で少し疲れているためにその事に気付いていない。
 少し興奮しているのか、若干頬を赤く染めながら、月女が弘夢へと説明をすると、弘夢はその途中で首を傾げた。

「ライオンはにんじんの谷から子供を突き落とすんだろ?」
「それとこれとは別ですし、そもそも人参ではなく千尋です。それから谷からどうやって落とすんですか、谷に落としてください!」
「仙人?」
「千尋!」

 半ばコントのようなやりとりを繰り返す弘夢と月女の様子に、雄杜が苦笑する。
 と、そこへ席を離れていたエメラインが給湯室からひょっこりと顔を覗かせた。

「ねえみんな、紅茶淹れるけれどいります?」

 学院内にテラスは複数配置されており、中には店員のいるカフェテラスも存在するが、今チーム紅茶がいるここのガーデンテラスは給湯室が自由に利用できるタイプのものだ。
 そのため、エメラインが各自に紅茶を用意しようと声をかけると、弘夢とやいやい会話のようなコントのようなものを繰り広げていた月女が、ぐりんとエメラインの方を向いた。

「私がやります!というか、メリア様いつの間に紅茶なんて持ってきたんですか!」
「あらあら、たまにはわたくしにやらせてくれたっていいじゃない。前に茶葉を持ってきた時にこちらにひっそりと隠しておいたのよ」

 慌ててエメラインに詰め寄り、エメラインが用意していたティーセットやらを取り上げながら、質問をしてくる月女に、エメラインが質問の答えを返してウインクをした。
 続いて、雄杜も立ち上がり給湯室へとやってくる。

「それではお茶にしましょうか、俺も準備します」
「ええっ、雄杜まで?わたくしにやらせてくれてもいいじゃない!」

 エメラインの主張もむなしく、てきぱきと給湯室でお茶の準備を始める自身のお付きと使用人に対して、エメラインは少し頬をむくれさせた。

「……うん、やっぱりカホゴってヤツだな!」

 その様子を一部始終眺めていた弘夢が、一人納得するように呟くと、弘夢の元へと不満そうなエメラインがやってきて、弘夢の座っている丸テーブルの、四つ席のある内の弘夢が座っている席の向かいへと座る。

「弘夢、何か言いまして?」
「んー?あの二人がカホゴだなって話!」
「まあ、言い得て妙、ですわね」
「炒りミョウガ?」
「その発想の豊かさ、わたくし好きですわよ」

 自分が言った言葉に対して、なんのしがらみにも捉われない突拍子な発想をしてのける弘夢に、エメラインはくすりと笑うと、頬杖をついた。

「確かに過保護だとは思うけれど、それも仕方ありませんわ。わたくしはメイスン家の次期当主ですもの」

 困ったようにエメラインが笑う。

「貴族は大変なんだな」
「ええ、本当に大変。でも生まれる所はわたくしたちには決められないもの」
「逃げたいと思った事は?」
「その結果が今ここ、ですわね」
「そっかぁ」
「そうですの」

 それ以上、特に何も追及しない弘夢と、エメラインの元に少しの静寂が訪れる。
 エメラインはその静寂の中、弘夢の顔をじっと見つめた。体を動かす事が好きで、じっとしている事が苦手な弘夢は、しかし、今はそういった気分でもないのか、いつものように落ち着きがなくなる事はなく、弘夢もエメラインの顔をじっと見る。

「弘夢の目は、星ですわね」
「オレの目?」
「ええ、きらきらと光る星」
「オレの目は星じゃないよ?」

 唐突なのもあっただろう、イマイチ意味が伝わっておらず、首を傾げる弘夢に対して、またもやエメラインはくすりと笑う。

「物の例えですわ。星みたいと言う話……綺麗、ということです」
「例えか!」

 エメラインが笑って付け加えると、弘夢は納得したように大袈裟に──弘夢自身は大袈裟にしているつもりはないが──反応すると、遅れて褒められた事に気付き、えへへ、と照れたように笑う。
 そこへ、準備が終わったのだろう月女と雄杜がティーセットを持って給湯室から出てきた。

「あ、月女。右から二番目、上から二番目の戸棚の中にお菓子もありますわよ」
「それをもっと早めに言ってください!」
「だって、わたくしが用意するつもりだったんだもの」
「こういった雑用をメリア様にやらせるわけにはいきませんから!」

 手に持っていたトレーをテーブルに置いて、給湯室に引き返した月女の背中を眺めながら、エメラインはちらりと弘夢を見た。

「本人が望んでやろうとしてるんだからいいじゃない、ねえ弘夢?」

 エメラインと目が合った弘夢はその言葉に頷くと、笑った。

「二人はカホゴだからな!」
「そうね、本当に。まさしくその通りだわ」

 笑顔で言い切った弘夢にエメラインも笑った。

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