櫛枝漆の独白 [ 50/50 ]


 最初にアイツを見た時の感想は、変な女。明らかにヤバい奴。お互いの獲物が有する距離が違いすぎるというのにやたらと俺に突っかかってくる。
 かと思いきや試合が終わったら話しかけられて、少し返事をしてやったら懐かれた。
 そこから毎日見かけたら声をかけられて、同じチームらしいゴーグルチビに良ければ相手をしてやってほしいと言われた。
 だからまぁ、そこまで頼まれたらと、めんどくさいというのが本音だからこちらから関わることはせず、向こうから話しかけられたらそれなりに対応してやってる。
 それだけでも、ただでさえ突っぱねているから周りに人は少ない俺からしたら充分チームメイトのお節介バカと同じような扱いーー世間ではこれを友達とかと言うのかもしれないが。まあそうなるわけであって。
 そこから朝に弱い事を自分でも自覚済みなくらい朝弱い俺が、お前は俺の何なんだと言いたくなるくらい世話を焼いてくるバカに叩き起こされて、眠気眼をこすりながら歩いていたらアイツを見つけたから、バカと同じような扱いで挨拶と共に頭に手を置いて、その場を立ち去った。
 そしたら驚くぐらい今まで話しかけられてたのからやたらと懐かれ、そんなアイツの私生活が見えるようになってから、違うチームだというのに珍しく世話を焼く対象と認識したらしいバカがアイツの世話を焼くようになった。
 すると俺にアイツを頼むと言ってきたゴーグルチビが突っかかるようになってきて、それをあのバカは受け入れてきて、名無しやら三つ編みやらうちのチームメイトは気付けばゴーグルチビを『身内』として迎え入れていた。
 向こうの変態覆面チームの半分と関わりを持った以上残りの覆面野郎共も関わってきて、いつの間にかチームまるごとの関わりになっていた。
 今思えばよくもまぁ、あんなひとつの試合だけでここまで、と思う。
 うちのチームはやたらと『身内』認定した奴に甘い。仲良くなる内に知った家庭のアレコレに怒ったり泣いたり、世話を焼いて首を突っ込んで突っ込まれ、そうこうしている内に、あの変態覆面チームが、アイツが日常にいるのが当たり前になっていた。

 だからきっと、俺は今この手を離せないでいる。
 咄嗟に掴んだアイツの手首は細くて、少しでも力を入れてしまえば折れそうな程だった。
 思えば、俺からこうやって動くのはあの時以来かもしれない。ガスマスク越しに見える色の違う両目は、俺を捉えているけど揺れている。どうしていいのか分からないんだろう。
 そこまで分かってしまうほど、長く一緒にいた。いすぎたのだ。もうこれを白紙にする事はできない。

「俺から離れられると思ってるの?」

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