Side:レイラ 01 [ 34/50 ]


侑宅、第一章
劉院くん編 溢れた世界お借りしてます。


 雨がしとしとと降り続けている。最初は雨が降りそうなだけの曇天だったが、自分がシフトで店に入ってから、少しもしない内に空が泣き始めたところだった。
 雨の日にはやっぱりお店の売り上げも好調、とは言えなくなる。いきなり降ってきたなら雨宿りにここを利用する人もそれなりにいるのだが、生憎本日は元々天気が良くなかったためにそういったお客様もあまりいなかった。
 店長がその中で現在数少ないお客様と談笑しているのを横目に、レイラは物品の整理を始めた。
 お客様が多い時は多い時でてんやわんやで大変だが、こうお客様が少ないと少ないで逆にやる事もなくてただ時間をもてあそぶだけになる。
 お客様がいる以上、そのすぐ横で店内の掃除をするわけにもいかないから、掃除もできないし。

「雨、強くなって来ましたね」
「せやなぁ、傘は持ってきとるんか?」
「はい、今日は生憎の空模様でしたから」

 お客様との談笑も一旦やんだ所で、あまりに暇を持て余していたから店長である隼人さんにそう話しかければ、傘の心配をしてもらったので、大丈夫と返しておく。
 今日は元々天気予報でも降ると言われていたから傘を持ってきていたし、いざとなれば鞄に折り畳み傘も忍ばせている。
 会話もすぐに終わり、外を眺めていると、どうやら店長は何かに気付いたようで、レイラをちょいちょいと手招きすると、レイラにタオルを押し付けるような形で渡してきた。

「え、あの」

 動揺している間に、店長はお客様と再び談笑をしてしまったため、理由も聞けないまま戸惑っていると、店長の視線が店の外へと向いた。
 つられて店の外を見れば、見覚えのある顔がそこにいた。

「あったかいコーヒー入れたる」

 店長に言われた言葉を聞いて意味を察したレイラは慌てて傘を掴んで外に出る。
 傘を差して、雨が降り続けている外を突っ切り、お目当ての人物に声をかけようか、どうしようか悩んでいると、その人が踵を返そうとしたのを見て、慌てて手を掴んだ。驚いたような顔と目が合う。

「レ、イラさん……」
「劉院くん、そんなびしょびしょでどうしたの?」

 店内から見ていた時から、彼はずっと傘を差していなかった。それなりに長い間傘も差さず雨の中にいたのだろう、彼は服も髪の毛も、びしょびしょに濡れていた。
 訳を聞いても、劉院くんは黙り込んで何も言わない。レイラは、無理に聞く必要もないか、と一人納得する事にした。
 店長が渡してくれたタオルでびっしょり濡れている劉院くんの髪の毛を拭く。

「…風邪ひいちゃうよ?店長があったかいコーヒー淹れてくれるって。」
「レ、イラさん…俺…。」

 動こうとしない劉院くんに先ほどの店長の言葉を伝えれば、劉院くんはちらりと店の方に視線をやった。
 いつも気丈な劉院くんは、されど最近はどこか弱っているようにレイラは感じていた。かといって、特に理由を問う事もしなかったのだが、こんな事が起きてる以上、何かあった事は確かなんだろう。
 悲しげに揺れる瞳を見ていると、こちらまで悲しくなってきて、思わず劉院くんの頭に手が伸びていた。

「劉院くん、大丈夫。そんな悲しい顔しないで」

 そう言ってレイラは劉院くんの頭を撫でた。
 いつもなら怒ってみせる劉院くんが、涙を流すのを見て、それがただただ悲しくて、頭を撫で続ける。
 空を見て見ても天気は変わりそうにない。
 雨はまだやまない。

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