追憶 [ 45/50 ]


元黒瀬のお話。

 そこに茂っている植物は普段から使っている森にあるものと対して変わらない。
 だが、今いる場所には「危険区域」という名前が付けられている。実際には同じ森でも、たったその一言だけで慣れている場所はとても恐ろしい場所のように感じられた。
 勿論普段や一般人は立ち入りを禁止されている。それなのに何故竜斗がその危険区域の中を歩き続けているかというと、勿論理由があった。
 学院の授業の一環として定期的に行われる定期試験だ。今回の定期試験の場所は学院の裏山の一部である危険区域で、ここには様々なところに魔物が潜んでいる。
 魔物と言っても基本的には小さな、学院である程度戦い方を見に付けた者からしたら他愛のないものばかりだ。それでもたまに大きかったり、強力だったりする魔物は存在していて、そのような魔物がいる場合には討伐団へ依頼としてまわされるらしい。
 定期試験の内容としては何パターンかあるらしいが、今回は指定された魔物を倒すという試験だった。倒した証拠に、その倒した魔物の一部か、もしくは魔物を倒した際に稀に落とす宝石を持ち帰る事により成績が付けられる。そしてその魔物を倒すまでの時間によって成績が決まるらしい。
 このような定期試験は学期末に行われ、どの学年も開催する日時は同じだが、基本的には場所が分けられている。たまに全学年同じ場所で行う事もあるという事は小耳に挟んだ事があるが、竜斗はまだ経験した事はなかった。
 竜斗の属しているチーム黒瀬はまだ一年目で、現在は十二月。学院での一年生としての期間はもう半分以上を終え、終盤に入っている。三学期制であるこの学院では、経験するのは二度目の定期試験という事になる。
 そして実践演習や定期試験に使われるこの危険区域だが、普段から人通りが多いわけではない。申請すれば使えるような解放されている範囲とは違って人の手も加わっていなければ人が歩くこともない。魔物の通る獣道のようなものしかないため、雑草などは伸び放題だった。
 それを踏み潰し、掻き分けて奥へと進んで行く。ふと、右方からガサガサと自分以外の立てる物音がした。チームのリーダーである桃子から止まって!と指示が飛び、チームである全員が走っていた足を止め、そちらを睨む。
 小さいが、小さい中でもそれなりの大きさの魔物が現れ、その魔物は竜斗達を視界に捉えると体勢を低くし、グルル、と地を這うような唸り声を発した。
 前衛である誠と竜斗が桃子と那美よりも前に出て構え、後衛の桃子と那美は後ろに下がって援護できるように体制を整える。
 魔物が様子を見ている間にと誠は腰に差している刀を抜き、竜斗がズボンの中に手を入れた。
 瞬間、既に臨戦態勢を整えていた魔物が跳躍した。狼のような獣に似たその魔物は後ろ足をバネにして力強く飛び出すとまだ武器を準備できていない竜斗へと飛びかかる。
 竜斗はそれをすんでのところで何とかかわす。
 そのまま後ろに一度大きく跳躍して、魔物との距離を空けてからズボンのポケットに入れていた小瓶を取り出して蓋を開ける。
 すると、蓋が開いただけなのにも関わらず水は小瓶の中から何かに操られるように飛び出し、宙に浮く。ぐにぐにと形をうねらせながらそれは質量を増して行き、やがて槍の形になり、それが突然に凍る。竜斗はそれを手にすると誠同様、その氷の槍を構えた。

「竜斗くん、気を付けてください」
「分かってる!」

 誠の言葉に返事をするが早いか否か、というところで今度は竜斗が踏み出した。魔物との距離を一気に縮め、槍を振るう。竜斗の攻撃が当たるかと思われたが、魔物は体をひねるようにして槍を避けた。
 それに追撃するように、後退した魔物に対して詰め寄り、その勢いのまま振り被っていた槍を振り下ろすが、また避けられ、振り下ろした勢いを殺さないように今度は反動で振り上げる。
 しかしその切っ先で魔物が捉えられる気配はない。すばしっこい動きに竜斗から舌打ちが漏れた。そのまま何度も魔物に向かって槍を振るうが、ことごとくかわされる。

「くそっ!すばしっ、こいん、だよ!」

 半ばムキになり魔物に対して槍を振り続ける竜斗を嘲笑うかのようにひらりひらりと身をかわし続け、一度竜斗の攻撃が止んだ所を見切ったのか攻めに転じてそれなりに保っていた距離を殺し、鋭い爪のついた前足を振るった。それを慌てて竜斗がかわす。かわせたが、反撃されるとは思っていなかったために反応が少し遅れ、頬を爪が掠めた。
 頬にぴりっとした痛みが走る。が、それを気にしている余裕もないまま魔物は次々と軽い体重と大きくない体の大きさを活かして攻撃を仕掛けてくる。それを後退しながら避け続けていると、不意に足を取られて尻もちをついた。

「って!」

 尻を強打した。痛いが、気にしている場合ではないと考えて前を向くと魔物はすぐそこまで来ていた。次に来るだろう痛みに備えようとしたところで、魔物が横から切り付けられた。
 いきなり切りつけられて驚いたのだろう、その場から飛び上がり、竜斗と距離を取った。そのまま様子を見るように、警戒態勢は解かないままこちらをじっと見つめて唸る。
 今の内に、と先ほど魔物を切りつけた誠が駆け寄ってきて、俺の手を掴み起こす。

「大丈夫ですか竜斗くん」
「ああ、大丈夫」
「馬鹿竜斗!突っ走ってんじゃないわよ!」
「分かってるよ!」

 誠に対して礼を言おうとしたが、途中で挟まれた桃子の一言により、その言葉は途中で飲み込まれた。言われた言葉に咄嗟に言い返したが、今はそんな言い合いをしている場合ではない。魔物はまだ生きているのだ。
 桃子に向けていた顔を先ほど魔物がいた位置に戻す。どうやら逃げる事はしないようだ。
 この状況でまだ勝てると思っているのか、それとも怒りで正常な判断が出来ていないのか。
 先ほどの攻撃が頭に来たのだろうか。魔物がもう一度跳躍して、今度は自身を切りつけた誠へと向かっていく。
 

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