はじまり [ 48/50 ]


「今回の定期試験は全学年同時なのね」
「そうだな」
「大丈夫かな…緊張してきた…」
「まあどうにかなるさ、そんなに気負わなくていいよまどかくん」
「う、うん…」

とある洞窟の前、生徒達がガヤガヤと盛り上がっている中ガガッという機械特有の音がして、思わずそちらを向く。
先ほどまでにぎやかだった声量が一気になくなり、静寂が訪れる。その場の全員の視線は機械音の原因であるメガホンを持った櫻井先生に向いていた。

気だるそうに説明を続けていく先生の声に少し周りの緊張が緩むのが分かった。周りが話を聞きながら準備を進めていく中、イチカさんも同様にストレッチを始める。
制限時間は4時間。チームで魔物を討伐した数を競う。時間オーバーで減点、洞窟を出た場合の再入場は禁止、入ろうとした場合でも赤点。
先生の言う言葉を頭の中で噛み砕きながら入念にストレッチを進めていく。足場が不安定なところとか、イチカさんにとっては良い条件だけど足つったりしたら元も子もないしね。
大分話し声も聞こえ始めた頃、またもや機械音と共に櫻井先生の声が再び響く。

『いいかお前等、授業でも言っているが魔物は人を食う奴もいる。どれだけ小さい魔物でも腕1つ簡単に持って行く奴だって普通にいる。たかが試験だとなめてかかると……死ぬぞ』

討伐団に関係しない者が言えば何も響かないようなその一言も、櫻井先生の左腕を見れば説得力は格段に増す。丁度よく風邪が拭いて、櫻井先生の何もはいっていない左袖を揺らした。
少し緩んだはずの緊張感が再び…先ほどよりも強く張り詰められる。今までで一番の静寂が訪れ、櫻井先生の息を吸う音までもが辺りに響いた。

『ではこれより、実技試験開始!!』

その合図で生徒が我先にと洞窟に駆け込んでいく。というイチカさん達も例外ではなく、その波に乗って人をすいすいとよけながら薄暗い洞窟の中へと足を踏み込んだ。



「ぜんっぜん見つからないわね」
「今始まってどれくらい経ったよ」
「10分くらいかな、まさか1匹も見ないとは…」
「この辺は狩られちゃったのかな」
「まっさかー」

薄暗い洞窟の中を声と足音を響かせながら4人でまとまって歩いていく。
先ほども言ったとおり、既に10分が経過したが未だに魔物のまの字の気配もない。

「この試験地味に運も関わってるから面倒くさいわよねー」
「だよね…このまま出会わないで試験0点、とかは嫌だなあ」
「ちょっと!嫌な事言わないでよ!!」

さやかちゃんとまどかくんのいつもどおりの喧嘩を耳に挟みながら先を目指す、と。

「分かれ道か」
「どこに行く?」
「そんなの適当でいいじゃない、私の刀の倒れたほうで良いでしょ」
「そうだね」

さやかちゃんが刀を鞘のままその場に立て、手を離そうとした瞬間だった。

「…?さやかちゃん、待って」
「何よ」
「静かに。何か聞こえる」
「はぁ?何かって…」

そう、何かこすれるような…というか嫌な予感しかしない音。
音の発生源は…上!

「ッ!全員今の場所から飛んで!!」

全員がバラバラの方向に飛ぶのを確認した瞬間に洞窟の天井から塊が落ちてきたのが見えた。砂埃から目を守る為に腕を前に出して、なんとか着地。
慌てて顔を上げるとさっきまで顔を合わせていたチームメンバーはいなくて、代わりに先ほど落ちてきたのであろう大きな岩が目の前にあった。

「全員無事かー!?」
「だ、だいじょうぶ…」
「それよりこの岩どうするのよ!」
「飛び越えられそうには、ないかな」

新介の声が響いて、次にまどか、さやか、イチカさんの声と辺りに響く。

能力であるかまいたちで岩を傷つけてみるも、ついたのはとても小さい傷。壊すのにはとても時間がかかる。
岩はとても大きな物ですっぽりと通路にはまる様に落ちてきたため、天井もふさがっており抜けられるようなスペースはない。

「しょうがない、別に全員で出て来いとは言われてないからこのまま進むぞ、それぞれ1人だが気を付けろよ!」
「わ、わかった!」
「あんたこそ変にくたばらないでよ!」
「それじゃ、また後で!」

全員の返事が聞こえると同時に殺気を感じてとっさに後ろを向く。そこには小さめの、いかにも雑魚と言ったような魔物が1匹。

「ラッキー、1匹目!」

しかけられる攻撃をよけて、壁を蹴り上げて後ろにまわり、能力で魔物を切り刻む。
その魔物は細切れになると、はかなそうな声を上げて消滅した。

その消滅する様子を見届けてから、進行方向をにらみ、誰もいない事に関する安堵感とチームメンバーへの心配を胸にしまい込んで道を駆けた。

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