夢と出逢い [ 4/50 ]
何かの大きい雄たけびが耳に届く中、目の前で赤色がごうごうと燃え盛っていた。
建物の瓦礫の間に見える影に、必死に手を伸ばすけど足が地面に着いていない私の体はどんどんと近づきたいその人から遠ざかっていく。
「良い?イチカ」
聞きなれた優しい声が鼓膜に響く。大好きな、お姉ちゃんの声が。
私を持ち上げていたお姉ちゃんは、そっと私を地面に降ろすと今まで走ってきた方向へ体を反転させた。
「まっすぐ、走り抜けて。私も、すぐに追いつくから」
明らかに言葉ではないそれを発する黒いものに、お姉ちゃんが突っ込んでいく。
待ってお姉ちゃん、置いて行かないで。
「来るなイチカ!」
踏み出しかけた足が止まる。普段からあまり怒らないお姉ちゃんの声。お姉ちゃんは、いつもの優しい声で、ただただ泣きそうに振り向いた。
「生きて」
止まりかけたお姉ちゃんはそう言うとまた向かっていた方向へと走り出す。
まって、お姉ちゃん。行かないで。
ひとりぼっちは、もう嫌だよ。
お姉ちゃん、
「お姉ちゃん!!!」
自分でそう叫んで、目が覚めた。
冷や汗で濡れた寝巻きがまとわり着いてとても気持ち悪い。
何度も何度も浅い呼吸を繰り返してから、ようやく落ち着いて窓の外を見る。
月明かりが綺麗な夜だった。
「…姉さん……」
窓の外を見ると本日晴天、日曜日。
カラカラの喉を潤そうと、部屋にある冷蔵庫を開けて、そこで飲み物が切れた事を思い出した。
「…ついてない……」
冷蔵庫の前でがっくりとうなだれる。
今日はチーム内での特訓とかもないから久々に寝る一日を過ごそうと思っていたのになんと言う事だこれは。
「…買いに行くしかないか」
行く前に気持ち悪い体をどうにかしようとシャワーを浴びて着替えた後に、テーブルの上に置きっぱなしだった携帯と財布を手にとってズボンに突っ込むと部屋を出る。
寮内にぽつぽつとある自販機を求めて歩いていると、目的の自販機の前でじゃれあっている幼馴染と同じ位の歳の少年を見つけて、足が止まる。
見つかりたくないし、別の自販機に行こうかな…。
踵を返そうとしたところで、幼馴染とばっちり目が合ってしまった。
あ、これは捕まったと直感が訴えながら、逃げるのも面倒くさいと踵を返そうとする足を止める。
「ようイチカ!」
「やあ夕介。調子はどうだい?」
「まあまあってところかなー。そうだ、紹介するよ。こいつは五十嵐那智。チーム五十嵐ってとこのリーダー。確かお前と同い年だったと思う」
夕介がそう紹介すると、リーダーらしい五十嵐くんが前に出てすっと手を差し出してきた。
差し出された手を取る。
「初めまして、チーム五十嵐のリーダーをやってる、五十嵐那智だ。よろしく」
「…初めまして、チーム宗像のイチカだよ。よろしく、五十嵐くん」
「こっちこそよろしく…えーと、イチカ、で良いのか?」
「うん、イチカで良いよ。名字はないから」
「それなら俺も那智で良いよ、よろしくイチカ」
「こちらこそ、よろしく那智くん」
彼の笑顔は、イチカさんにとってとても眩しいものだった。