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 ちらりと時計に目をやっては何分間かは教科書とノートとにらめっこ。ノートはとったけれど正直適当だ。昨日のことで身が入らないというか集中出来てなかったからボールペンを取り出していちいち赤線なんて引かなかった。ノートの罫線にモノクロな文字がいくつも並ぶだけ。
 やっとチャイムが鳴ったら、周りの子と同じようにすぐにシャーペンと消しゴムをペンケースへとしまう。出来ることなら早く帰りたかった。のに。

「日直さんは悪いけど職員室までノート出しに来てもらえる?」

 黒板の日直の名前を見ると苗字と綺麗に私の名前が書かれていた。よりによってノート提出の日だなんてアンラッキーだ。心なしか圧の籠った先生の目に私は声もなく苦笑いした。

「苗字さんお願いね。」
「これよろしくー。」

 間もなくクラス全員分の大量のノートが席に届いた。帰りの会が終わってから、何十冊も積まれたノートを気になって出席番号順に直した。
 そして鞄を持ちながら職員室まで。頑張って、なんて友達からの他人事を受けて階段を下った。
 少女漫画とかドラマの世界ならここで男の子が現れてヒロインに荷物が重そうだから一緒に持って行ってあげるよ、なんて言葉と共に手伝ってくれたりもする。残念ながら私にはそんな相手はいない。それどころか振られてるけど。

「侑士〜代わりにやってくれよ!」
「何で俺がD組のノート出さなあかんねん。自分で行きや。」

 足にブレーキがかかったのは急だった。下り先には向日くんの声、それと多分名前通りなら忍足くんが一緒にいる。どうやら、向日くんもノート提出の担当になってるらしい。
 なるべく間を空けて、出来ることなら遭遇しないように10秒ごとに1歩ずつ重い足取りで階段を下った。そんな私の計らいも空しく「苗字!」上から突然誰かに名前を呼ばれてびっくりした私はバランスを崩した。どさーっとノートと共に盛大な音を立てて階段に座り込むような形で。

「わ……悪ぃ!大丈夫か?!」

 だっと階段を下りてくる音。顔を上げると、さっきの声の主は宍戸くんだった。「多分大丈夫」と無意識に適当な返事が口から出てきた。一瞬自分でも何がなんだかよく分からなかったけど、少しずつ脛の辺りが痛いとか手首が変な感じだとか痛覚が鋭くなってくる。そして次に視界に入ったのは

「やば、ノート落としちゃった……!」

 階段に散らばるノート。そのほとんどを落としたことに軽く絶望して気が遠退きそうになったけれどそれだけではなかった。下の階からも階段を駆け上がってくるような音がして嫌な予感がする。

「なんやえらい音がしたけど大丈夫かいな?」

 物音を聞きつけたのか忍足くんと向日くんが下階から駆け上がってきた。せっかく接触しないようにと思っていた努力も水の泡になった。




「で、宍戸は何してん。ノート係か?」
「ジローの奴がノート出し忘れてたから届けに来たんだよ。ノート係はこっち。」

 そう言って宍戸くんが私の方を指すので思わず苦笑いしてしまった。内心は全然笑えないけれど。

「つーかあいつ授業中寝てんだろ。ノート意味ねえって。」
「一応、皆で授業内容をまとめたりしてノート作ってあげたりしてるんだ。」
「ふーん。」

 興味なさそうながらも相槌を打った向日くんの方をちらっと見ればぱちりと目が合ってしまった。けれど先に目を逸らしたのは向日くんからだった。ちょっぴりショックというか複雑な気持ちになった。
 落としたノートは皆で全部拾った。拾ってもらった。謎にニコニコしている忍足くんの微笑を背に淡々と拾ったノートの埃を申し訳程度に払う。転んだのもそうだけど仕事を増やしてしまったのが一番恥ずかしい。俯きながら拾ってもらったノートを受け取ったけれど足より顔が真っ赤だったと思う。

「後でちゃんと保健室行っとけよ。」

 去り際に向日くんに声をかけられて心臓がドキリとした。これだけですぐ嬉しくなれるものだから私ってば実になんて単純なんだろうか。


見られました
穴があったら入りたい。