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少し日が傾きかけた放課後の教室。生徒の殆どは部活に打ち込むか下校したかのどちらかで廊下はしんとしていた。吹奏楽部のフルートやらトランペットの練習音が微かにBGMみたいに廊下に響いているだけだった。
一方で私は頭が真っ白。一世一代の告白という場面でたじろいでいた。
2人きりでいつまでも呼び止めておくわけにも行かない。私は帰宅部で暇人だとしても彼は氷帝テニス部のレギュラーなのだから練習に向かわなければならないのだ。
好きです。何が好きか。向日くんが好きだ。どこが好きなのか。英文法を組み立てていくような自問自答を心の中で繰り返して「あ、あの」と上ずりながらもやっと声が出てきた。
「テニス部でいつも見てて、その……好きです!」
何から言おうか迷って結局口から出てきたのはベタな台詞だった。自分でも顔に熱が集まってるのが分かるくらい顔が熱い。きっとりんごみたいに真っ赤になってると思う。
鳩が豆鉄砲を食った顔ってこんな感じなんだろうか。「えーっと……」向日くんも状況が飲み込めていないと言わんばかりに口角を僅かに振動させていた。言葉の歯切れが悪いのはそういうことなのだろう。少しずつ指先が冷たくなるような感覚がして、近くに置いていた鞄の持ち手を握り締めた。
*
向日くんに関して、幼稚舎の頃はそんなに興味なかったというか何も知らない人だった。関わるきっかけも行動するグループもまるで違う人だったし。
きっかけは、中等部に上がってからクラスの友達が私をテニス部の練習に連れて行ってくれたこと。
最初は乗り気じゃなかったけれど、ひょいと宙返りをしたかと思えばその間にラケットを振って返球する、周りと比べると身長の少し低い赤いおかっぱ頭の子から視線を離せなくなっていた。
皆が右を見ている中、私だけはずっと左を見ているような状態で他の女の子達が跡部くんへ歓声をあげているのにも気づかずじーっと見惚れていた。
言ってしまえば一目惚れ。それかギャップ萌えってやつなのだろうか。それを放課後の教室だなんて定番じみた場所でいとも簡単に想いを告げてしまったことを軽く後悔した。
「悪ぃけど、い、今……テニス部の大会で忙しいから……。」
「あ……。」
すっかり自分のことばかりで失念していたけれど日にちを考えればテニス部の関東大会が目前に迫っていた。なんてタイミングの悪いことをしてしまったんだとますます後悔に苛まれる。
「い、忙しい時期なのにご、ごめんなさい!」
「べ、別に怒ってるわけじゃねーよ。ただ、その……。」
何かを言い淀んだのか言葉がそこで止まった。私はじっと向日くんの言葉を待っていたけれどその続きが語られることはなかった。
「と、とりあえず俺、練習あるから!」
言い捨てるかのような「練習あるから」と語気の強まった言葉が脳内にリフレインする。
すぐ近くにあった鞄を取ると向日くんはすぐさま教室を走り去った。足音が徐々に遠くなるのを感じてぽつんと残された私はため息をついた。
失恋しました。
これからどうしよう。