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 学校に着いたのは日が暮れきるギリギリだった。あっちから行くと早道になるかもしれないなんて土地勘の冴えてない場所で適当なことをしたのが馬鹿だった。おかげで今から下校する人なんてほとんどいない。誰ともすれ違うことなく職員室のそばまで行くと室内から明かりが外に漏れていた。
 道中で何度か後ろを振り返ったりしたけど何もいなかった。というかいなくてよかった。

 テスト前につき入室禁止。職員室の引き戸の貼り紙が少し煩わしかったけれど、恐る恐る引き戸を開けると近くにいた先生が不思議そうに私のことを見やった。

「苗字さん? 何かあったん?」
「あ、テニス部の部室に忘れ物しちゃったので鍵を貸してほしくて……。」
「部室の鍵? そういえば白石まだ返しに来てへんなぁ。」
「白石くんが?」

 白石くんって教室に忘れ物してたはずじゃなかったっけ。思わず聞き返してしまったけれど「そう、白石が。」と先生は確かに頷いた。もしかして部室の鍵返し忘れたっけ、なんてことも思ったけど今日は忍足くんと返しに行ったからそれはない。

「まだおったら早く帰るように言ったってな。」
「はーい……。」




 テニス部室の辺りまで来た頃だった。心地の良い打球音が一定のリズムを保って聞こえてきた。やっぱり白石くんが残ってるんだろうか。まだ人が残ってるのが気になって、私は部室を通りすぎてコートの方へと足へ運んだ。

 コートに向かうごとに音は徐々に近づいた。フェンス越しに見えてきたのはコートに散らばったテニスボール。人の姿が見えた。背丈だとか髪型だとか、白石くんだと分かるのにそう時間はかからなかった。
 籠から取り出したボールを高く放った瞬間。偶然なのか「あっ」とぱちりと目があって白石くんの動きが止まった。空中に飛んだままのボールは打たれることなく地面にバウンドして転がった。

「え、苗字さん?」

 なんでここに、みたいな表情をされたけどそれは私も同じだった。ボールのせいで何回かよろけそうになりながらも白石くんがフェンス元まで近づいてきた。

「ちょっと打ちたくなったっていうか……あ! コートとかボールもちゃんとなおすし心配せんといて!」
「う、うん?」

 慌ててるせいなのか早口でまくし立てられる。ボールとコートをなおすっていうのが今一つピンと来なかったけれど相槌を打った。微妙な沈黙。少し上ずったような声で「そ、それで、苗字さんは何かあったん?」と聞かれて戻ってきた理由を思い出した。

「部室に忘れ物しちゃって……少し鍵貸してほしいんだけど……。」

 そう言うと、あぁと思い出したように白石くんは納得した。やっぱり何か置いていってた。白石くんがポケットから鍵を取り出すとフェンス越しにこっちに差し出した。指で摘まむように受け取る。

「もう外暗いやろ。送るからちょっと待っててな。」

 私が何か言う前に近くにあったボールを拾い始めた。自主練を邪魔してしまった気もして申し訳なかったけれどこのまま白石くんを手伝わないのも気が引けてとりあえず私もコートの片付けを手伝うことにした。