せっかくだから部員の紹介と親睦会を兼ねてテニス部1年の皆でお昼ご飯を食べることになった。白石くん以外は初対面、おまけにきっと男子だけなので正直気が引けたけれどせっかくのお誘いを無下にする訳にも行かない。
普通の学校は危険だから屋上が開放されていないはずだけどこの学校は普通に開いてるらしい。植木鉢があちこち置かれていて花が咲いている。
「白石ー!」
屋上に到着するなり、明るい髪色をした男子が右腕を振って出迎えてくれた。知らない人だけど多分テニス部の人だ。その子に近づいていく白石くんの後をついていった。
「その子が転校生の?」
「せや。苗字さん。」
白石くんが横にずれると改めて皆の顔が視界に入った。彼の紹介を受けて軽く会釈すると一瞥された。転校してきた時からそうだったけれどやっぱりまじまじと見られるのには慣れない。
「俺、忍足謙也や。よろしくな。」
「うん、よろしく。」
忍足くんの他にもスポーツ刈りの子とかバンダナをつけた子……小石川くんだとか金色くんだとか一氏くんだとか。特徴的だったから皆の名前と顔を一致させるのに時間はそうかからない気がする。金色くんは緊張する私を見てか「そんな緊張せんでええのに〜!」と笑っていた。
「ていうか忍足……お前もう食い終わったんか。」
「当たり前やろ。」
白石くんがそう言って視線を向けた忍足くんのお弁当箱は確かに空っぽだった。お昼を食べ始めてからまだ数分も経ってないのに。相当早食いらしい。
「そういえば石田は?」
「ああ、委員会があるって言うてたで。」
「もう1人、特待生で東京出身の奴がおるんやけどまた今度紹介するわ。」
「うん。」
私の他にも東京から来てる人はいるらしい。仲良くなれたらいいなぁと思うけど特待生って言われるとすごい遠い存在の人な気がしてくる。
軽くだけれど、話しててギャグとか笑いの雰囲気に慣れてないからか頭の中では疑問符が絶えなかった。でも皆明るくていい人そうなのは分かる。忍足くんはときおり話題を振ってくれた。大阪の印象はどうだとか、テニスのこととか普通の話。
「俺も従兄が東京に引っ越してんけど、電車とか駅がややこしいって言うてたわ。」
「そうなんだ……。でも確かに乗り換えとかはややこしいかも。」
「やっぱそうなんやなぁ。」
話の切り目にタイミング良く予鈴が鳴った。次の授業もあるからそろそろ教室に戻らないといけない。本当にただの顔合わせって感じだったけれどこれで大丈夫だったんだろうか。お弁当は結局食べきることは出来なくてそのまま蓋を閉じて包み直した。
「あ、次の授業体育や、ほなまた後で!」
慌ただしく忍足くんは走って行ってしまった。食後だというのにかなり足が速くてびっくりした。あっという間に姿が見えなくなって、それからすぐ私たちも教室に戻ることにした。