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 朝練を終えて着替え中。コートの整備も終わって朝会に間に合うべく、急いで制服のボタンをとじる。急いでるというのに、そわそわとした様子で忍足が「なぁなぁ」と声をかけてきた。

「なぁ白石、転校生どうやった?」
「どうやったって、何が。」
「何か可愛いとかこう……いろいろあるやん。」

 訳の分からん手振りで忍足から"いろいろ"を表されたもの多分思ったような話は出来ない気がする。
 自分で確かめればええやろ、と適当にあしらったら「違うクラスやとハードル高いねん」と食い下がられた。軽くため息をつきながらも会話の内容を少し思い起こしてみるものの、大阪生まれ大阪育ちには聞きなれない彼女の話す標準語が少し壁に思えたりもした。

「まぁ……ドライな感じやな。ちょっと抜けてそうやけど。」

 忍足のしつこさに根負けしてそれだけ言うと「何やそれ」と返された。それこそ何やねん。
 忍足を置いて着替えを終えてドアを開けたところで「待ってや!!」と誰かの大声が聞こえてきた。

「ええ!ちょ、困るでそんなん!」
「すんません。でももう決めたんで。」

 気になって見に行けばマネージャーの女子と先輩の口論する現場が視界に入った。足早に女子が去っていくと取り残された先輩は深くため息をついて頭を抱えた。何か嫌な予感がする。

「これは困ったことになったで……。」

 こちらを振り返った先輩とつい視線がぶつかった。




 数日通って気づいたけどこの学校って先生笑わせたら大抵のことは許される謎のルール?みたいなものがあるっぽい。遅刻ギリギリの子が門の前で急にお笑いを始めたときは正直訳が分からなくて呆然とした。そしてもう1つ。

「苗字さん部活決まった?」
「ま、まだ……。」

 クラスで今日1番聞かれたこと。部活の話。
 この学校は不思議なことに生徒には運動部と文化部の兼部が義務付けられている。皆そこそこ部活が決まっているらしいことと、部員集めに必死になってるところもあるらしくて勧誘の波がすごかった。
 運動部はサッカーとかバスケットボールとかメジャーなスポーツからカバディっていうスポーツの部活もあるらしい。
 文化部は文芸部とか新聞部とか、何をするのかわからない諜報部とか。あとこの学校っぽいなって思ったのはお笑い研究部とか落語研究部。
 何はともあれ見学するにも怪我はあるし松葉杖だと不便ということで松葉杖がとれるまであと数日は帰宅部。主に階段の移動が億劫なせいだけど。

「よかったら見学来てな! いきなり入部でもええけど!」
「あ、うん、ありがとう……。」

 またなー、と手を振って部活へ向かうクラスメート。関西弁も聞く分にはだいぶ慣れてきたと思うけど、言葉の勢いには相変わらず慣れない。1を言えば10で返ってくるような感じだ。私は相槌を打つのでせいいっぱいで、会話の波には押されに押されるばかりだった。




 計1週間と数日の松葉杖生活が終わった。学校に行くと歩いてることに驚かれたので私のキャラって何なんだろうと疑問になった。微妙に違和感はあるけど前みたいに歩けない程の激痛ではない。

「何や苗字さんが普通に歩いとると違和感あるなぁ。」
「人間としてはこれが普通なんだけどな……。」
「そらそうなんやけど。」

 白石くんは席が遠いにも関わらず、空いてる時間を割いて話しかけに来てくれる。東京はどうだったとかそんな話はなく、あの先生はどんなお笑いが好きだとか世間話ばかり。クラスには馴染めているかは分からないけれど日常的な会話で気が楽だった。

「あ、せや、苗字さんテニス好きやろ?」
「え?なんで……?」

 いつからそんな設定がついたんだろうか。よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに白石くんがため息をついて演技する。あくまでも演技。
 彼の話によるとマネージャーの女子が辞めてしまったらしい。正確には転部だけど。なんとなくこのあとの言葉に予想はつくから大変だね、なんて他人ごとに受け流した。

「部活決まるまでの間でええから手伝ってくれたら助かるんやけど。」
「私、マネージャーとかやったことないんだけど……。」
「全然大丈夫やで、助かるわ!」

 私がそう言ったら謙遜は肯定にとられてしまったらしく、白石くんは手をとって喜んだ。やりますとは言ってないにも関わらず、である。えぇ……。





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