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聞きなれない関西弁。焼けつくような日射し(これは東京でも同じだけど)。
転校ってのはかなりストレスかかるものなんだなぁと改めて思う。ただ人間関係が出来てきているであろう2年とか3年の時期じゃなくて1年の頃っていうのがまだ救いである。
こつこつと松葉杖で体を支えながら何とか前進するものの学校に着くまでにあとどれくらいかかるんだろうか。思ったより体力を使うのはもちろん、おまけにこの暑さなので弱り目に祟り目だ。
転校先の学校からは松葉杖が必須なうちはリュック登校でもいいとされてるけど、それはそれで地図を取り出すのが意外に大変だった。けれど地図なしで土地勘のない場所なので適当に歩き回るなんて怖くて出来ない。
道の端に寄ってから、リュックをずらして地図を中から取り出す。目印になるお店を基準に考えると右に曲がってから直進して左に曲がるらしい。学校っぽいところが未だ見えなくて不安になってきた。
「おーい、大丈夫かー?」
後ろから人の声がした。「おーい」とまるでこっちに向かって言ってるかのようで不思議だった。というか私に言ってるのでは?自転車が隣に寄って来て私はやっと自覚した。
「わ……私?」
「他に人おらんやろ?」
辺りを見回すと少しは人気があったものの、その人の近くには確かに私しかいない。
その人は半笑いでそう答えるとわざわざ漕いでいた自転車から降りた。私の歩調に合わせながら自転車を手で押す。背丈も私とそう変わらなくて、着ているものも制服に見えた。同じ学校の人か、そうでなくとも年の近い人だと思う。
「同じ学校やろ?」
「そう……なんですか?」
「制服で分かんねん。」
確かに制服にしても黄色の面積が多いのってちょっと変わった制服だと思う。同じ学校ってことは男子の制服はわりと一般的なデザインなんだ。
「足大変そうやな、乗ってくか?」
松葉杖なのを察してか自転車の後ろを指してそう言った。素直に2人乗りはダメだと思うので「大丈夫です」と丁重にお断りした。
「何年?」
「1年……です。」
「せやったら同学年や。敬語使わんでも。」
「あ、そうなんだ……。」
年上だったらと思って付け足した敬語は意味がなかったらしい。同い年。同い年かぁ。
「あ、俺は白石蔵ノ介。そっちは?」
「苗字なまえ。」
「苗字……? うーん、クラス聞いてもええ?」
「まだ、今日から転校してきたばっかりだから分からなくて。」
「ああ、道理で聞いたことないなぁ思たわ。俺4組なんやけど、同じクラスやったらええな。」
学校に着くまでのその後も気さくに好きな食べ物はとか趣味はとかスポーツなんかやってたん?とか当たり障りのない質問と回答が続いた。たまに私が道を間違えそうになると「そっちとちゃうで」と白石くんに引き戻された。
「ちょっと見た感じ学校っぽくないやろ?」
「え……ここが、学校?」
ぴたりと白石くんが自転車を押す手を止めた。
視界に一番に入ったのは大きな鳥居。少し進むとお寺のような正門があって、その先には普通の校舎が見える。お寺の中に学校……。
信じられなかったけれどここは紛れもなく四天宝寺中学校。私が今日から通うことになる学校だった。