「もうそろそろ朝礼始まりますけど。」
屋上の日陰でぐったり座りこむ私に声をかけたのは生意気盛りで1個下の後輩だった。顔を上げると黒髪の隙間からいくつか彼のピアスが太陽の光を受けてきらきらして輝いていた。
ここにいる目的は同じ癖に他人事みたいな顔をして私の隣に座り込んだ財前に「そっちこそ」と返すと「俺は初犯やし」と私に対する当てつけのような返事をされた。可愛くない。懐いてるんだか懐いてないんだかよく分からないところは気まぐれな猫みたいだ。
「財前ってサボリとかするキャラだったっけ。」
「悪い先輩に唆されたみたいっスね。」
「そんな悪い先輩がいるんだ。誰だろうねー。」
わざとらしく返してみたものの鼻で笑われた。棒読みに何か突っ込んでくれてもいいじゃないか。
財前も私もそんなにお喋りな方ではない。沈黙が流れると気まずいというか先輩の私が何かしゃべらないといけないような気がしてしまう。
校庭の方からは校長先生の話し声、その後に時おり笑い声が聞こえてきた。今頃みんなは制服の汚れも気にせず校長先生のギャグにずっこけてるんだろうか。あんなの何が面白いんだとここから叫んでやりたい気もするけど私に理性があってよかった。
「……何かあったんスか。」
「そ。悲しい出来事が……。」
思い出したら少し目の奥が熱くなってきた。私は膝に顔を埋めて項垂れた。
「謙也も酷いよね。」
財前の足元の影が僅かに揺れた。謙也、というワードに反応したのが分かった。ずっと悩んでいたことなのに終わるときはあっさりだ。
「あの、」
「今日のお笑いテストめっちゃ滑った……。」
思い出したら恥ずかしくて穴があったら入りたくなってくる。財前が何かを言いかけたような風だったけれど続きはなかった。顔を上げたときに顔を見るとなんだか間の抜けた顔で財前がこっちを見ていた。あれ?