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短編にならなかった没ネタ置き場

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崩壊
2020/01/29 03:42

 グラウンドを見ていた。数年前までは私もあそこにいて練習の記録をつけたり手伝いをしていたのが随分遠く感じる。

 高校生になって3度目の春を迎え、1年目の頃にはぽっかりと空いた穴が今では塞がりつつある。
 進学するとき、工業高校の方に進んだのは仁王と私くらいで皆とは別校舎。そのまま普通の高校に上がった子が多かったからか、あんなに中学時代は付き合いが深かった友達ともウソみたいに疎遠になった。校舎はそう離れてないのに全く顔を会わせる機会もなければ連絡の口実もない。

「お前さんがそんなに寂しがりやったとはのー。」
「うん。」

 いつも通り、仁王がからかうような口調で茶化してくる。さすがにそこまで鈍感じゃないから、いつまでも過去を引きずるような女に付き合ってくれる理由や視線にも何となく気づいていた。それを知っていていつまでもずるずるとこの関係を続けているのだ。卑怯と言われても仕方ないと思う。

「ごめんね。仁王。」
「いつか振り向いてもらうき。」

 仁王が私の頭を撫でた。撫で方まで一緒。心を塞いでいた瓦礫が一気に崩壊していくような気がして私は唇をぎゅっと噛んだ。