大精霊の髪を撫でながら王座に座する王たる王。軍師として傍らに立てる事は至極光栄。不意の気紛れや余興に付き合うのは常。そして全ての光景を見せ付けられる。王は軍師に目もくれず、猫のように膝元に擦り寄る女を愛でながら彼に言葉を放った。

「王はこれとお前のどちらをいとおしく思っているか分かるか」

実に詰まらぬ問い。ただの気紛れで発した言葉に過ぎない。しかし軍師は悲しげに眉を寄せ、消え入りそうな声で囁くのだ。まるでこれが適当な答であるかの様に。

「王は私を困らせたいのか」

「片翼、何故そのような顔をする」

仕組まれた会話。軍師は王の顔を見ようともせず、指先で愛でられる美しい精霊を見詰めながら答える。実に従順。

「何故私を困らせるような事ばかり仰るのか。王は私しか愛せないと云うのに」

女の唇をなぞる指先が止まる。実に計算された動き。それを合図に、これまで二人を見ようともしなかった大精霊が翡翠色の髪を揺らし彼らを見上げた。それは鈴を転がしたように透明で美しい声だった。

「吐かせるのが御上手だこと」

満足するのであれば、いかに詰まらぬものでも繰り返す。それが貴方様の片翼。それが貴方様の刃。それが、王たる王に魅了された者共の行末。実に滑稽。



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title by 誰花
元:跪く僕のアイデンティティー
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