「おまえを愛すことは容易いよ。それでも一緒じゃないんだ。一つじゃないんだ。おまえとあいつは全くの別人で、だからおれはおまえとあいつを重ねて見る事は今までもこの先もきっとないし、それに、だって、おまえはあいつじゃないじゃないだろう。あいつはおまえじゃないだろう。一緒じゃないんだよ。別々の人間なんだよ。俺はお前とあいつがこれ以上ないくらいすきなんだ。同じ愛じゃないんだ。それでも愛したいんだ」



奪った癖にと言葉と拳を叩きつける。あたたかい場所にはもう戻れない。あのひとは俺を「俺」として見てくれない。お前が全部奪ったんだ。あの場所もあのひとも俺が持っていたものすべて。分かっている。ただ生み出されただけのこいつが利用されていたことも人形だったこともその人形が心を持っていることも、分かっている。認める訳にはいかなかった。認めてしまったら、十年間握り締めてきたこの思いを失くす事になる。
本当は本当は本当は、うらやましかった。あの場所に戻りたかった。あのひとの笑顔があいつに向けられるのが嫌で仕方が無かった。奪われたのに、どうしようもなく羨ましかった。俺が俺でなくなった日に、俺が生まれた。しんじまえ。しんじまえよ。燃えかすなんていらない。俺じゃない俺なんかいらない。知ってるよ、何を言っても尋ねても、おまえが何も悪くないことくらい。

「俺、お前からすべてを奪った」

「黙れ」

「俺、お前から父上と母上を奪った」

「おい」

「俺、お前からナタリアとガイを奪った」

「なあ」

「俺、お前から居場所を奪った」

「…やめろ」

「俺、お前からお前を奪った」

「知ってるんだよそんな事」

まるで何も知らないような眼だった。この世の綺麗な所だけ見てきた、そんな眼をしていた。俺は汚いものしか見てこなかった。ルーク。俺から俺を奪った、俺。お前は奪っただけじゃなかったんだ。聖なる焔の燃えかすを俺にくれた。お前にはあたたかい陽だまりが似合うな。俺には灰に塗れた地下室が似合いだ。思えばあの人の隣も陽だまりの様にあたたかかった。

「あの日、俺はルークになった」

「あの日、俺はアッシュになった」

分かってるよ、お前のすべて。けれどお前は、お前だけは、好きになれそうにない。



「お前があいつを愛していることくらい知ってるさ。同時に俺を愛してることだって知ってるさ。それが全く違うものだっていうのも知ってるさ。それでも俺は叫ばなきゃならない。俺を奪ったあいつに、叫ばなきゃならない」

「何を、叫ぶんだ」

「奪った気でいられるのも今の内だ」

「…じゃあ、奪われる日を心待ちにしてるよ。俺の可愛いアッシュ」

「優しいガイ。お前はいつもそうやって俺達を期待させるんだな」



111212


title by hmr
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -