疲れ切った様子で椅子に座り込んでいるのは綺麗なきれいな顔の半分を白い布に覆われたうつくしい俺の兄上。もうその覆われた半分を俺には見せてくれないのだと分かっていた。

「来い、昭。その腕を兄によく見せてみろ」

あの襲撃の後、すぐ様邸に戻って下女に手当てさせた。医者を呼ぶ手配もした。それなのに、俺よりもひどい怪我を負ったのに、どうしてこのひとは俺の心配をするのだろう。言われるまま側に寄り、ずたずたになった袖を捲り上げて素肌を晒した。皮膚を裂く一筋の赤を見た途端、恐ろしい程整った表情の半分が一瞬だけ歪んだ。

「手当てを」

「心配には及びませんよ。ただの刀傷です」

いつもと変わらない表情を見詰めながら小さな嘘を混ぜた言葉を吐いた。馬鹿め。呟きと共に手を握られる。傷は浅かった。けれど痛かった。それでも眼前の肉親の身を案じていたかった。俺はそれを甘えにすり替えているのだ。分かっていた。父が世から居なくなった今、本当の意味で縋る事が出来るのはこのひとしかいないのだ。些細な事でもいずれそれがこのひとを奪ってしまうのではないかと恐れた。それでも兄は前を向いたまま歩みを止めない。後ろを振り返らない。本当は分かっていなかった。だって分かりたくない。だからひどく恐ろしいものだと思ってしまう。兄を、失うことが。
そしてそれは、彼も同じなのだと知る。彼は表情を変えないままだ。笑わない。握った手を離さない。上から包み込むように、けれど痛いほど。多分、いやきっと、兄上は俺が思っている以上に



「兄上、…兄上」

「昭」

「ごめんなさい。兄上」

傷が痛む筈なのに疲れ切っている筈なのに力強く抱き締めてくれる優しい優しい俺の兄上。そうだ。あなたは誰よりも強くて、誰よりも優しい。誰よりも俺の身を案じる肉親。あなたは俺を残していってしまう。



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