「くれるの」

広い掌から溢れるほどの紙切れをあげた。常人なら物怖じしてしまうであろう量の、金と呼ばれる紙切れを。

彼が欲しがりそうな物を考えた。一生懸命、一生懸命、真剣に考えた。結果がこれ。

「足りないならいくらでも差し上げます」

「ありがとな」

嬉しそうに笑う司馬昭殿。満足する私。ああ、大成功。うまくいった。うまくいきすぎて恐怖のようなものを覚えた。大成功だ。そう、大成功。

「ところで諸葛誕」

「はい」

「シャツのボタン開いてるぞ」

いつもは一番上のボタンまでしっかり止めてる癖に、と札束を握り締めたまま胸元に手を伸ばす司馬昭殿の表情を見て口内に唾が湧き出た。だからこそ、大成功なのだ。あなたはいつだって私に分かり易すぎる答えをくれるのですね。ヒントなんて焦れる物は寄越さないんだ。

「ところで司馬昭殿」

「ああ」

「その紙切れの使い方はご存知ですか」

二度瞬いた後、細められた目を見て得たのは確信。「しらない」と嘯く彼の手から紙の束を奪い取り、背後のソファーの上にぶちまけた。背に注がれる視線、熱い、です。

「使い方は、ご存知ですか」

「知ってる」

振り向いた先には手があった。手はシャツを握り締め、そして力任せに左右に引っ張った。弾け飛ぶボタンに目もくれず私ごとソファーに倒れ込んだあなたの目には欲。紙切れを敷いてはじめるのは、あなたが望んでいること。つまり、大成功。


110919

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