艶のある黒髪を横目で見遣る。同じ黒髪と言えど此処迄違うと、別段自分の髪に誇りを持っている訳でも無いのに何だか比較したくない気持ちになるのは何故か。恋慕を抱いている筈も無い、けれど時間の許す限り見詰めていたいと思った横顔は杞憂を口にした。

「あの、才蔵」

「嗚呼、心配しなくても良いから」

珍しく伊佐那海はアナと寝るらしい。何でも久し振りに女同士で話に花を咲かせるとか何とか。「一晩だけ部屋に泊めて欲しい」と頼んだ張本人は同室で寝起きを共にする俺達を気にしたのか、今更になって気を遣い始めた。それがこの人の性分なのだろうけれど。

「普段はオッサンにこき使われてんだ。俺なんざ使える時に使ってくれよ」

「…有難う御座います」

律儀に頭まで下げて礼を述べたこの人の本心を、俺は知っている。知っているからこそ何も言わない、何もしない。人と人の間に入るのは嫌いだ。
御休み。そう言うと口元だけに微笑を浮かべて彼は布団に体を埋めた。今晩に限ってどうして夜警当番が回って来ないのだろうと彼に言った言葉とは若干矛盾した気持ちを抱きつつ、少し離れた寝床に潜り込む。なあ六郎サン、あんた俺が好きなんだって?首筋に好い痕付けてる癖に。俺の気持ちも知らない癖に。



110302


恋敵=若
title by 愛執
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