彼に銃口を向けてみた。其処には理由も何も無い、ただ「試しに」銃口を向けてみただけだ。甚八を殺そうとは微塵にも思っていないし、何より彼は義兄弟である。加えて筧十蔵と言う男はとんでも無い律儀者であり、一度恩義を受けた者に殺意を向ける可能性は無に等しいのだ。故に、「試しに」。義兄弟である己が甚八に銃口を向けたなら、彼は一体如何様な反応をするのだろう。単純な疑問だった。同時にそれは愚考でもあった訳だが。

「よォ、義兄弟。何の真似だ?」

「心配は無用だ、甚八。某に御前を殺そう等と言う考えは無い」

「この状況で吐ける言葉だとは到底思えねえな」

それを言うなら御前とてそうでは無いか。苦い笑みを浮かべながら紫煙を吐き出す彼の手の内には既に、規模は小さくとも鋭い閃光が渦巻いているのだから。それを指摘したら甚八は首を傾げた。その儘己の右手を見る。途端に大きな笑い声が響いた。

「こりゃあ笑えるぜ、十蔵」
「無意識だ」

俺達危ねえな。そう言われてから初めて気が付いた。彼に銃口を向けてみた、では無く。彼に銃口が向いていた、のだ。自分が彼に銃口を向けたと意識するより先に。どうやら自分達は、相当な痴れ者らしい。



110220


title by 讒
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