壁に打ち付けた背中に痛みが走る。直ぐ様体勢を立て直そうとしたが、己より先に彼が動いた。 「温い」 ぬるい。聴覚を拾う器官にその一言だけを留めて世界は回る。酸素を求めて肺がのたうち回る。気が付けば才蔵が自分を見下ろしていた。 「死ねば良い」 かなり立腹しているらしい。何故彼が自分に対し怒っているのかよく分からなかった。殺意が降りて来る。彼が近い。世界は狭い。 嗚呼、そうか。 「才蔵」 容赦無く散々に打ちのめされて最早倦怠しか感じない体躯に鞭を打つ。輪郭に手を伸ばした。薄い唇を指でなぞる。刹那、弾かれて蹴り飛ばされた。だが、此れで十分。此れで良い。 「最初から寄越せ、阿呆」 言葉と共に降りて来るのは殺気では無く唇。触れる直前に此方から食い付いてやった。彼は存外、欲しがり屋だ。 110201 title by ポケットに拳銃 |