「殴らせろ」

ばき

狭い部屋の中に妙な音が響いた。自分の拳も痛かったのはきっと力を込め過ぎたからだと才蔵は考える。佐助の口端には血が滲んでいた。ざまあみろ、だ。けれども茶髪の間から覗く眼には才蔵が望んでいた驚きや動揺の色は無かった。

「だから、何」



「てめえが悪いんだ」

聞こえた一言に眉間の皺を一層深くして、吐き捨てる。間を置かずにどすどすと乱暴な素振りで畳を踏んで部屋から出て行った。

才蔵が出て行った直後に佐助の口から出た小さな、乾いた笑い声は直ぐに止まる。

「――雨春」

呼べば懐からにょろりと顔を出す鼬の胴体を片手で捕らえ、その小さな口に己の唇を触れさせた。

「山分け」



此れだから彼は、才蔵はあんなにも可愛らしい。



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