天命館





お前一体何やってんだと声を張り上げようとして、開きかけた口を閉じた。場所が場所だ。そもそもどうして俺がこんな窮屈な思いをしなければならないのだろうと思い返してみたが浮かんだ原因は一つしかなかった。



『具合悪い吐いた今トイレ』

句読点の無い何とも読みにくいメールの送信者は可愛い可愛い後輩から。今季流行りの食中毒とやらにでもなったのか。取り敢えず『どこの』と返信したら『南校舎二階はやく』なんて文が返って来たものだから笑ってしまった。相当参っているらしい。ひねくれた援軍要請だ。学年が違う俺ではなく同級生に頼めば良いのに、妙な所で頼るから面倒だ。そんな一面がくそ可愛いから逆にこっちが参っちまうよね。

「鍾会、来たけど」

南校舎二階。静まり返ったトイレの中、一つだけ扉が閉まっている個室の前に立って声を掛ける。少し間が開いて「歩けそうもないんです」と蚊の鳴くような声が聞こえた。笑った。

「泣きますよ」

「寧ろ泣け。珍しいもんが見れる」

「…」

「ほら、開けろよ」

保健室まで連れてってやるからと普段出さないような優しい声で言ってみたら、案の定気持ち悪いと死にそうな声色で返されたのでにやける口角を必死で抑えながら扉が開くのを待っていた。




「似非優等生が何やってんだ」

「心配要りませんよ、欠課補充を受ける気でやってます」

脱力。会話が成り立ってない。俺としちゃひたすら黒板の文字を写すよりこっちの方が楽で良いけれど何だか損した気分な訳で。
扉が開いた瞬間、隙間から白い手が伸びたかと思いきや腕を掴まれて中に引き摺り込まれた。勢い余って便座の蓋に乗り上げる。このトイレ洋式か。後方で小さな笑い声が聞こえる。やばいこれ学校の怪談、まで考えて止めた。

「…具合悪かったんじゃないのかよ」

「すみません、急に盛りが」

「猫か」

男二人だといっぱいいっぱいな個室で器用に手を伸ばしてくる可愛い後輩。俺はと言えば便座の蓋に片膝で乗り上げたまま文句を垂れているだけだ。自分の腰辺りでかちゃりと揺れるベルトの音に期待を抱きながら。

「六限までには帰せよ」

「六限分丸ごと欠課補充受けるつもりなので」



110801

801の日記念
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