砂煙が舞う中立ち尽くしていた。何処なのかは分からないしどんな経緯を経てこの場所に辿り着いたのかも分からない。ただ一つ確かなのは、この広い世界に俺ひとりしか存在していないという事だけだ。別段悲しくはなかったし、かと言って楽しくもなかった。何処に向かおうともせずその場に立っているだけ。気が付くと足首まで砂に埋まっていた。次に意識を足元に向けた時、砂は膝下まで至っていた。このまま全身埋まったら死ぬか、死ぬな。あいつみたいに不様な死を晒すなんて嫌だ。此処には俺ひとりしか存在しないけれど。あいつって誰。

「――」

掠れた音、が聞こえた。その時初めて砂がかさを増しているのではなく自分が砂の中に引き摺り込まれているのだと分かった。ああ、もう腰まで。何かが腰に巻き付いていた。縄でも蛇でもない。二本の腕が逃すまいとばかりに腰に絡んでいた。俺は逃げないのに。そう声に出そうとしたら砂の中からずるり、と人の頭が出てきた。俺が沈んでいくのに比例して頭は段々と顔に近付いてくる。この際だから面を拝んでやろうと奴が顔を上げる瞬間を待っていたのに、砂まみれの手で両目を覆われた。

「私たちは」



夢だった。目を開けたら小さな寝息を立てる元姫がそこにいた。彼女の腰に絡めていた腕を解いて体を起こす。私たちは。その先は聞いていない。聞く前に目を覚ましてしまった。私たちは。愛し合っていた、正しい、いつまでも共に、結ばれない、間違っている、殺し合う運命だ、本当に愛し合っていたか、どれも当てはまらない。

「…最高だ」

未だ残る眠気を振り払おうと目元を擦ったらざらりと妙な感触がして指に砂がついた。俺、すごくいい夢を見たんだ諸葛誕。お前意外と寂しがり屋なんだな。

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