捏造司馬炎





堕落した晋帝。祖である晋王に顔向け出来ぬ。
誰かがそんな言葉を呟いた。斬るか。否、どうでも、いい。父に顔向けなどせずとも良い。あの方は攸を後継にする心算だった。才だけでなく人望まで弟に劣る私になど端から期待していなかった事だろう。家督を攸に譲ると口にした途端に家臣達は猛反対。そして渋々私を選択した、と言ったところか。

「愚かな。天罰が下ったに相違ない」

はっきりと聞こえる冷たい声。最早何をする気にもならなかった。私は父の言い付けを守ったのだ。お前達が私に求めた司馬子上の影を見たか。私は父に倣った政を成してきただろう。

「お前が帝となれ。だが光は発するな。お前が輝けば影が出来る。影の動きは分からない。誰が何を企てているのか。誰が誰に陥れられているのか」

あの日、意味の分からない事を言ってのけた父は力なく笑っていた。彼は死期を悟ったのよと母は言う。次の日の早朝、司馬子上はその生を終えた。



光るな、輝くな、影が出来るから。晋帝となった私の脳内に幾度となく響く声。父に呪われているのではないかと錯覚した。
父の遺言通りには出来なかった。禅譲を受けた人間が輝かぬなど難しい話ではないか。意図せずとも晋帝の二文字が私に光を浴びせる。影が、伸びる。それでも私は探し続けたのだ。敬愛した父の言い付けを如何にしたら守れるだろうかと。己を、司馬子上を戒める様に発した言葉の真理は何なのだろうかと。

答えは見付かった。その日から政を疎かにする様になった。酒と女に耽る様になった。光が薄れていく。影が薄れていく。これで良いのでしょう。貴方は大切な人間が己に刃を向ける哀しみを子に味わせたくなかったのでしょう。でしたらご心配なく、司馬安世に最早光は当たりませんので。
病床に集い晋帝の遺言を聞く振りをしている臣下達の顔を見上げながら唇を動かす。何も知らぬお前達の眼にはさぞかし愚かな男が映っていただろうよ。けれど私は父上の言い付けを守ったのだ。ざまを見ろ。



110704


title by 女狼
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