暴力表現有り





私は動揺していた。それは叩いた掌が熱を持っていたからでも、彼が片側の頬を赤くしたからでも、ない。兎に角私は動揺していたのだ。司馬昭殿がおもむろに髪を掻き上げた、その時だった。彼の項、生え際の近くに赤い点が一つ見えた。そんなもの、付けた覚えはない。だとしたらまさか。
気付いたら彼の首飾りの紐を握り締め、力任せに引いていた。うわ、と何とも間抜けな声を発して此方に彼の体が傾く。同時に手を振り上げ、そして。



「それは、何なのですか」

「見りゃ分かるだろ」

司馬昭殿の頬を打った掌が更にじわりじわりと熱を帯びる。彼は赤くなった頬に手も添えず、ただ私を見詰めていた。口許にさも愉快そうな笑みを携えて。渾身の力を込めて赤みを帯びた頬を、今度は手を握り締めて、殴った。司馬昭殿はよろけて寝台に倒れ込んだ。その上に跨がり茶髪を鷲掴む。

「あの時あなたは確かに私を受け入れた!なのに何故!」

あなたは私を選んだじゃないか。私に愛させてくれたじゃないか。それなのに、こんな形で裏切った!

「あなたは私を愛してはくれないのか!」

いつしか首に移動していた手を掴まれた。我に返って手を離す。彼はひどく咳き込んだから、相当な力で締めていたらしい。私はこんなにもあなたを想っている。あなたはそんな私を受け入れてくれた。なのにこれは一体何だ?だが、答えは既に出されてしまった。

「一人しか愛せないなんてそんな事」
「誰が決めたんだ、諸葛誕」

それは屈託無い笑顔を浮かべていた。途端に恐ろしく思え、早急に彼の上から退こうとしたが、それは許されなかった。掴まれた手首がそれを物語っていたのだ。今思うと、あの行為自体が司馬昭殿にとって当然のものだったのかも知れない。あなたを独り占めしたい。自分だけ見て欲しい。どうすれば叶うのだろう。私には分からない。だから、彼はいつでも答えを与えてくれる。

「欲せ、俺を」



110521


title by 女狼
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