現代





兄上、風邪引きますよ。


肩に掛かるのは恐らく弟の上着。私よりも肩幅の広い彼が着ていたそれは肩からずり落ちそうで、しかしこれまた私のものより広い両の手によって阻止された。その小さな優しさが妙に可愛らしくて、彼らしくなくて、結局起きているのに目を開けない所謂狸寝入りという奴を実行してしまった。

「…可愛い寝顔しちまって。キスでもしてやろうかな」

人の寝顔(実際は起きているが)を見て好き勝手な感想を述べてくれる凡愚、否弟のテスト勉強を見てやっていたのだが、何処で気が抜けたのか私は居眠りをかましてしまったらしい。近くで雑誌を捲る音がした。昭め、まだ課題の半分も終わっていなかっただろう。そろそろ説教が必要か。

「…昭、」

狸寝入りを中断して薄く目を開ける。これからどうやってこの馬鹿弟のやる気を出させようか。だがしかし、予想だにしていなかったとはこの事だ。鼻先同士が触れるほどすぐ近くに父兄に似ていないと評判の顔があった。今まで出会った人間の中で、私が最も好む顔だ。それはキスでもしたくなるような表情だった。



110509


title by 愛執
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