死ネタ注意





父が亡くなった。彼はいつだって偉大なる父だった。子の模範となった。厳しさの裏には分かりづらい優しさがあった。俺も兄も、父を敬愛していた。率直に言えば、大好きだった。彼には色々な(本当に色々な)事を教えて貰ったし、何よりこの血筋は怠惰を纏う自分にとっての枷であり、舞台から降りられない事を意味する。頂を目指せ、と父は兄に言った。俺は久方振りに頭を撫でられただけだった。
兄が亡くなった。優しさの欠片も見付けられない程、他にも己にも厳しい人だった。恐ろしく狡猾だった。才があった。地位があった。風格があった。天命だけが、彼を見放した。俺は兄が大好きだった。最期に彼は、ありがとうと言って眼を閉じた。権力を譲り受けた俺がこれから何をすれば良いのか、何も教えてくれなかった。
腹心が死んだ。やっと行き先が見え始めた所だった。妄執を抑え込み、大陸を統べる為に足を動かし始めた矢先に。一人は護送中に暗殺された。一人は謀反を起こして死んだ。大切な臣下だった。俺の腕だった。陥れられて。そそのかされて。そして死んでいった。二人はいつも俺に助言をしてくれたのに、何も言わずに、勝手に死んでいった。
元姫が、元姫が口を動かしていた。ぼやけてよく見えなかったが、それでも言葉だけは聞き取れた。ありがとう。ありがとう、子上殿。だいすきよ。どうして彼女が、普段から素直でない彼女がそんな事を言うのかよくわからなかった。どうして頬に滴が落ちてくるのかよくわからなかった。俺もだいすきだよ、と言おうとしたけれど唇は動かなかった。ありがとうとだいすきを繰り返しながら、彼女は泣いていた。そうだよな、そうなんだよな。待っているのはいつもさよならだ。



110504


title by 舌
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