死ネタ注意 その日も私は、彼の前に跪いていた。 司馬昭殿は手足の指の間が苦手だ。それと、指先や耳の輪郭もそうだった気がする。他には確か、喉仏と鎖骨。本心では嫌だ苦手だと首を横に振る癖に、私の前では王者を演じたがる。酷いにんげんを装う。 「ほら、諸葛誕」 燭台の灯に照らされる素足は正しく彼のもの。惜しげもなく晒されたそれは日焼けしておらず他の箇所よりも白く見えた。私は、それに、今から舌を這わすのだ。飼い主に従順な狗のように。強者に逆らう術を無くした獣のように。 「っ、ン、」 「…お前は本当にいいこだな」 わざとらしく咥内で蠢く指に舌と唾液を絡める。差し出すのは欲に塗れた忠誠。与えられるのは自分が彼の飼い狗だという事実。私は彼の忠実な狗でいなければならない。今までも、この先も。力の差を見せ付けられた獣は大人しく従うしかないのだ。 手足の指の間から指先、そのまま鎖骨へ。喉仏を伝う舌でほんのりと色付いた耳の輪郭をなぞると彼の肩が少しだけ跳ねたような気がした。司馬昭殿は楽しげに笑んでいたが実際は喘ぎ声を漏らしたくて堪らない事を私は知っている。私しか知らない。真に支配しているのはどちらだろう。それでも立場的には、曲がりなりにも主従の画が出来上がってしまっている。 私はそれを壊したくて仕方がなかった。 彼を足下に跪かせてみたい。散々虐げられた代償として。彼の従順性を引き摺り出す為に。理由は何でも良かった。ただ貴方の、剥き出しにした本性を見たい。この身に刻みたい。化けの皮を剥がすのは、私だ。 「奴の三族は皆殺しだ」 狗が死んだ。最後の最後に俺に刃を向けて。馬鹿な男だ。生前にあれ程力の差を見せ付けてやったのに。従順でいればいつまでも可愛がってやったのに。それを知った上で飼い主に牙を剥くだなんて。嗚呼もうお前はなんて凡愚振りを見せてくれたんだ諸葛誕。馬鹿で阿呆で従順だった、俺が愛した可愛い男。 俺が握る刃の先をその胸に埋めながら、息絶え絶えの彼が言った言葉は確か、 「わたしはほんとうにいいこだったでしょう」 彼が舌を這わせた所が疼いて仕方がない。 110426 彼の本性に依存したのは彼でした tltle by 讒 |