汚らわしいと思った事は一度としてないが厭わしいと感じた事は幾度と無くあった。司馬子上と言う男はこれ以上無い程軽い男だったのだ。気に入った人間であれば男であれ女であれ側に置きたがる。侍らせたがる。時にはあろう事か同衾の話さえ持ち掛ける。そのまま閨の世話までも、といった噂を耳にした事は一度だけではない。斯く言う鍾会も夜半に呼び出され、目の前の寝台に腰掛けた司馬昭にその話を出されたばかりだった。

「お前は細いし白いし女顔だ、つまり抱かれた方が似合うと思うんだがそれで文句ないよな」

「申し訳ありませんが司馬昭殿、私は未だ返事の一つも返していません」

「嗚呼、言い忘れてた」

これは命令だよ鍾士季。
口許に笑みを浮かべた司馬昭は表情こそ柔和だったが冷徹な一言を彼に下した。王者に気に入られたが最後、足掻く事も許されない。
しかし鍾会は容易に身を渡すような男では無かった。誰が好き好んで同性に抱かれるのだ、これで昇格の話でも出されればまた話は別だが生憎と聡い我が主は己の野心を見抜いている事だろうからそれは許してくれない筈だ。それでも彼に抱かれる事自体厭わしく感じるのだから鍾会は、口角をつり上げて尽くすべき人間の前に跪いた。

「恐れながら我が君、私が抱かれるような性分でないことは御存知でしょう」
「ではこう致しましょう、貴方が私に抱かれれば良いのだ」

言うが早いが素早く立ち上がり、瞬きを繰り返す司馬昭を乱暴な手付きで寝台へと押し付けた。表情を覗き見る。

「…酔狂な奴」

「仕方ないでしょう、ずっとこうしたかったんですから」



110423


title by 愛執
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