「…またあんたか」

色素の薄い長髪を高く結い上げ、見るからに聡明そうな顔付きをした女が己の前に立っていた。あの小さな口から罵詈雑言とまでは行かずとも、多少の文句を含んだ言葉が飛んで来る事は百も承知だ。嫉妬深いなんて物じゃあ無い、けれど鬱陶しいと感じる程意識の内に入れている訳でも無い。この女が勝手に嫉妬しているだけで、そう、だから下らない悪口を吐いたり私が彼の隣に立つ様を見る度悔しそうな表情を浮かべたり一人で寂しがったり。仕方のない事だからと割り切れないものなのか。これは軍事だ。己の仕事だ。あんたみたいに私情を抱えてこなす訳がないだろう。

「誰でも思う事よ」

それが異性であれ同性であれ、やはり仲睦まじく(彼女曰く、だが)接する様を見ると幾ら彼女が彼に近い存在だと言っても嫉妬はするものらしい。全く以て面倒。だから口煩い女は苦手なんだ。

「自分でも下らない事だって分かってる。だけど」

何だ、まだ言い足りないのか。軍議の時間だ、これ以上は御免被る。

「少しでも長く側に居たいと思うのは、いけない事?」





「…めんどくせ、」

「早く片付けて下さい、後が詰まってます」

「鍾会」

「何です」

「頼りにしてるぜ」

「、」

――成る程、確かに。



110322


title by ポケットに拳銃
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