「名前、ちょっとその棚の上の貯金箱を取るざんす」

「棚の上…の貯金箱……あ、あのネコのやつですか?」

「そうざんす」



そうざんす、と軽々しく社長は言ったけど、その貯金箱は結構上の方にあった。私じゃ手が届きそうにない。作業をしているとは言え、すぐそこにいるんだから社長が自分で取ればいいのに。
だけどそんなことを言ったところで「わしが忙しいの、見てわからんか」なんて怒られるだけだ。そう考えた私は、そこにあった椅子に上って貯金箱を取ることにした。



「かわいい貯金箱ですねぇ」

「そうざんすか?別に貯金箱なんて、金が入ればいいざんしょ」



どうでもよさそうに社長は言った。
守銭奴の社長のことだから、この陶器のネコちゃんもたいそう重くなってるだろう。そう思い込んで気合いを入れて持ち上げると、思いのほか軽かった。足に反動をつけすぎて、椅子の前足が浮く。ちょっとバランスの悪い椅子はそのまま倒れて、私より下にあったはずの社長の顔の位置が逆転する様子がスローモーションのように見えた。


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