うーん、どうしよう。どうしようなんてそんな軽いレベルじゃないけどどうしよう。笑って済む問題じゃないけど笑うしかない。
何を隠そう、そのときの私は貧窮も貧窮、もう公園で新聞に包まって寝るしか道はなかったのだ。

給料日直前に会社が倒産、雇い主は音信不通で、債権より優先されるはずの社員の給料も帝愛ファイナンスに差し押さえられ……。家賃を払えなくなった私は、問答無用でアパートから追い出された。
いつの時代のどこの国の話だよ。現代の日本でそんなことがあっていいのか?
何度自問自答したってお金が湧いてくる訳はなく、どこかに泊まるだけのお金もなく、あてもなく、ただ闇雲に歩き回っていたわけだ。ただお腹が空いただけで、いい案も思いつかなかった。

この際なんでもいいから何か転機がないだろうか。優しいおじさんがお金を恵んでくれるとか、優しいおじさんがお家に連れてってくれるとか、優しいおじさんが養子縁組してくれるとか…。うーん、なんと言う他力本願。
そんなことを考えながらとぼとぼ歩いてふと顔を上げると、目に入ったのは大きなお屋敷だった。白塗りの奇麗な塀がずっと延びていて、何メートルか先に門がある。
世間の端っこにはこんなにかわいそうな(自分で言うか)人間がいると言うのに、片やお屋敷。神様って不公平なのね…。きっと代々続く由緒正しい家系で、お嫁さんはお世継ぎを生むことに躍起になってるような、そんな家族が住んでいるんだろう。
どれ、そんな不公平のもう一片の名前でも見てやろう。私が表札を見てやろうと門の前へ行ったのは、そんな気持ちからだった。

伊集院とか綾小路とか、そういう仰々しい表札の似合いそうな門についていたのは、カマボコ板みたいな木に「村岡」と毛筆で書いてある表札だった。お金持ちの間ではこういうのが流行ってるんだろうか。
カマボコ板に一通りの好奇心を満たしたあと、向こう側の門に貼られた一枚の紙に気づいた。
これまた大きなお屋敷には似合わず、チラシの裏に、今度はマジックペンで書いた風だ。

住み込みお手伝いさん募集
【高給優遇!】簡単な家事をお手伝いください!
TEL 090-××××-×××× 村岡

住み込み?つまり家賃なし?お手伝いさん?その場合光熱費ってタダ?
詳しいことはよくわからないけど、つまり屋根の下で寝れるし最低限ご飯は食べれるという、目の前に降ってわいたような幸運に、私は興奮を隠しきれなかった。

どうか、まだ誰も応募してませんように……!
八百万の神々に祈りながら、私はまだ通じている携帯電話に手を伸ばした。



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