りんく のコピー | ナノ




目が覚めた時、そこに彼がいた。いつものくすんだ青色をした袖の長いジャージを纏う彼は、何時ものように緩やかに口角をつりあげてその黒い双眸を細めた。長い腕が伸びて、それに比例して長く白い指が僕の額にかかる髪の毛を梳く。それはとても冷たい手だということをのぞけば、懐かしい仕草だった。
けれど、ここに彼がいるなんてことは起こりうるはずがなかった。彼が笑顔を浮かべることも、彼が僕の髪に触れることも、起こるはずがなかった。
それでも僕が何も言わなかったのは(言えなかったというのが正しい表現かもしれない)彼の表情がとても柔らかいものだったということ。彼に会えた嬉しさが何よりもその現実を上回っていたということ。そしてこれが僕の意識が見せた幻だとしても、彼と話をしたかった、だからだ。

「妹、お芋」
「誰が芋ですか、怒りますよ」
「それは困るでおまっ」

あまりにも楽しそうに彼は笑った。つられて笑おうとして、けれどそれは叶わずに僕は一粒涙を流したようだった。彼の長い指が僕の頬を撫でる。そして彼は困ったように眉を八の字の形にして目尻を下げた。

彼はここにいるはずのない人物だった。こうして笑みを浮かべることも、口を開くことも絶対に出来るはずのない人物だった。

だって、彼―聖徳太子―は死んだのだから。








いるはずのないひと



(お前に呼ばれた気がしたんだ)








To Be continued...





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