小説 | ナノ





(那月と翔)

「…すこしだけ。すこしでいいから。」

不意に背中から回された腕は可愛い可愛い翔ちゃんのものだったみたいだ。読んでいた雑誌を閉じながら考える。さっきまで翔ちゃんは、僕の背中に背を預けて僕同様雑誌を読んでいたみたいだけど、もしかして甘えたくなったのかな。もしそうだとしたら、きっと翔ちゃんの顔は赤いんじゃないかななんて想像する。あんまり可愛過ぎて少しだけ頬が緩んだけれど、口には出さない。だって翔ちゃんがこうして甘えてくることなんてほとんどないから。僕から抱き締めることは日常茶飯事だし、頭を撫でることも多いけれど、それは翔ちゃんが僕を甘やかしてくれるから出来ることで、そう、翔ちゃんは僕を含めた皆に優しい。そのくせ自分にはとっても厳しいから、人に甘えたり出来ない。僕はそんな翔ちゃんが、こうして恥じらいながらも甘えてくれることが嬉しくて仕方ない。
だからこうして翔ちゃんから体を触れさせてくれた時は怒らせるようなことは口にしないように気を付ける。そうっと翔ちゃんの手に僕の手を重ねて、そうすれば翔ちゃんはさらにぎゅうっと僕に抱き付いて。ああ、なんて可愛いんだろう、翔ちゃんは。

「翔ちゃん。」
「那月。」

背中に顔を埋めているから必然的にくぐもった声はとても小さい。それでいて痛くはないけれど、僕を離したくないといわんばかりの腕の力の強さ。僕は翔ちゃんに愛されているんだなぁと感じることが出来る時間だ。ただ1つ言わせてもらうなら、翔ちゃんを抱き締めかえすことが出来ないというのが、なんだか少し切ない。やっぱり抱き締めかえしたい。思い切り、ぎゅーっと。そうして大好きだと告げたい。愛してると告げたい。翔ちゃんは耳が弱いから耳元で囁く。そうしたらきっと耳まで赤く染めて、けれど今日は甘えたくてしょうがないから僕の胸元に顔を埋めるんだと思う。それから僕はキスを落とす。まずはその向日葵みたいな髪の毛に。ううん、向日葵じゃないな。太陽。僕を照らす明るい太陽に口付けて、翔ちゃんがそれに気付いて顔をあげてくれたら次に額に落とす。翔ちゃんはくすぐったくて瞼を下ろすだろうから、そのタイミングで瞼に下ろして、散々キスを落としたらその柔らかい唇に優しく口付ける。僕に甘えて良いんだよって。弱音を吐いても良いんだよって。そんな僕の想いをたあくさん込めたキス。考えて、考えてから翔ちゃんの腕を解く。そうしてくるりと翔ちゃんの方へ身体を向ければ予想通り赤い顔がある。なんて可愛いんだろう。でもそれは口にださない。翔ちゃんが怒ってしまうから。代わりに腕を伸ばして、翔ちゃんが壊れてしまわないように優しく抱き締める。そうしたら翔ちゃんは僕にすっかり、とまではいかないけれど少し体重を預けてくれたから、この動きは正解だったみたいだ。だからさっき考えた通りに翔ちゃんの耳元へ唇を寄せる。吐息まじりの擦れた声っていうのが翔ちゃんが僕の声の中で一番好きな声らしいからそれを心がけてみる。多分その声は翔ちゃんが欲しくて欲しくてたまらない時に出す声だから頑張る必要はない。何時だって僕は翔ちゃんを求めているのだから。

「翔ちゃん。」
「……ん、大好き。」
「え?」

けれど随分と間抜けな声がでてしまった。だって翔ちゃんからこんなことを言ってくれるだなんて思っていなかったから。つい頬が緩んでしまうのは不可抗力。お星様たちだって、翔ちゃんがこのタイミングでこう言ってくれるだなんて予想していなかったはずだ。ああ、もう。翔ちゃん大好き。溢れる想いは言葉だけじゃ足りない。足りないから僕は翔ちゃんの耳たぶに口付ける。

「僕も翔ちゃんが大好きですよ。」
「……知ってる。」
「ねぇ、翔ちゃん。僕はね、翔ちゃんがこうして僕に体温を預けてくれていること、言葉をくれること。本当に嬉しいんです。」
「お前、恥ずかしい。」

考え通りにはいかなかったけれどこれはこれでいい。翔ちゃんが小さい声で俺もだよ、なんて呟いてくれたから僕にはもう十分。




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