「待ちたまへ、Ms.みょうじ」
『へっ?』


晩ごはんを食べて、友達と図書室で今日出た課題をやるために、一度寮に帰ろうと思って大広間を出て廊下を歩いている途中、後ろから低く、ねっとりとした抑揚のない口調で呼び止められる。私は一瞬うわっと思い振り向くと、全身黒ずくめでとても顔色の悪いスネイプ教授がいた。


『なんでしょう、スネイプ教授…』
「少し話がある。良いですかな?」


スネイプ教授は一歩前に出て、私を見下ろすと意地悪そうな顔をして口元を歪ませた。その顔を見た瞬間、私は嫌な予感しかしなかったし、友達は先に行ってるね、とそそくさと退散してしまった。大体、この人に授業中以外に話しかけられる時はいい事なんてそうそうないだろう。授業中ですら声掛けられたら減点と思えと言いたいくらいだ。この人自身や、授業の雰囲気はあまり良いとは言い難いが、この人が書き記した黒板での調合方を見る限り教科書よりもうんと分かりやすく良い出来のものが調合できるので、優秀な人なんだとは思うけれど、自分の寮であるスリザリンを贔屓し、他の寮からは理不尽な減点をする。クリフィンドールほど目の敵にされている訳ではないし、知性を重んじるレイブンクローの生徒が減点を不用意にもらう事は滅多にないにしろ、やっぱりレイブンクロー生からも評判は良くない。そういう私もろくに関わった事はないがこの人が苦手だ。そして私は教授から減点をくらうような事はしていないはず。私がもう一度なんでしょうかと聞くと彼は“今日の授業での事だが…”と言ってまた一歩前に出た。


「Ms.みょうじ、君は今日の授業中いつもより集中が足りなかったように思う。今日の調合は危険を伴うと私が初めに説明したにも関わらずだ。何か理由があるのかね?」
『いえ、至っていつも通りだったと思います』


本当は今日は朝から少し具合が悪かった。とはいっても授業が受けられないほどのものではなかったし、医務室にお世話になるものでもなかった。このくらいで授業が受けられないようではレイブンクロー生として失格である。体調管理も学業の内だ。ただ、調合の時に鍋から漏れる臭いに少しだけ気分が悪くなっただけ。授業が終わって外の空気を吸ったら気分もすぐ良くなった。調合の出来は文句ないものだったはず。誰にも気づかれていないと思っていたけれど。なんだか教授に本当の事を言うのが憚られて咄嗟に嘘をついてしまった。すると教授はピクリと片眉を器用に上げてまたさっきのような意地悪な顔をした。


「教師に嘘を吐くとは、レイブンクロー5点減点」
『!!』
「君があの時体調が優れなかったのは明らかだ。本当の事を言っていたら減点など無かったのだがね。普段レイブンクローは減点する機会がなかなか無いのでな」


ニヤリ、そう聞こえそうに笑う教授は“それとも君はレイブンクローの生徒の癖にそんな事もわからない程頭が悪いのですかな?”とまた一歩前に出て私を壁に追いやる。


「まぁ、私としては君のような生徒がいてくれた方が減点できて有難いのだがね。次にこういう事があれば正直に言いたまへ。私の気が乗れば薬をやろう」
『でも先生、私が正直に言っても結局減点しますよね?』
「勿論だ」


そう言って彼は長いマントを翻させて元きた道を戻って行った。

やっぱり私はあの人が苦手だ。


*教授の一人称はわざと私にしてます。
(20140712)
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