まただ。今日もギシギシと音を立ててあいつが階段を登ってくる。今日もあいつは飽きもせず私に会いにやってきたのか。あいつも暇じゃないだろうに。お母さんにももう家に入れないでとお願いしたのになんでかなー。そう思っているうちに足音は止み、私の部屋のドアをノックされた。私はぼふりと布団を深く被り何も言わず寝たふり。しばらくするとドアが開かれてあいつが私のベット脇にどかりと腰を降ろした。

「みょうじ、今日の分のプリント等を持って来た」
『いらん、帰れ』
「そうはいかん。お前は俺の幼馴染みで、俺はお前との連絡係だ。今日の学校での出来事をお前に話し、今日のお前の出来事を聞く。それが役目だ。最低でもそれが終わるまで俺は帰らん」


なんだよそれ。そんなんてきとーにやってろばか。私にお前の都合なんか知らないし、第一、お前を連絡係だなんて認めてねー。柳生呼べ柳生。あぁ柳生なら何でも話せたのに何でよりにもよって真田なんだよ。先生のばか、しね。ついでに喋っていいなんて一言も言ってないのにぺらぺらと学校での出来事を勝手に話してる私の目の前のこいつもしね。興味ないんだよクラスがどうとか文化祭がどうとかそれこそ勝手にやってろ。真田は一通り喋り終わると、私に今日はどうしてたかなんて聞いてきいてきた。布団から顔を出さず一言だけ。


『今日の私はこの布団から出てません。終了』
「後は、ないのか?」
『ねぇよ。お前の仕事終わったんだろ、早く帰れ。そして二度とくんな』
「そういう訳にはいかんと言っただろう。お前がまた学校に来るまで俺は毎日来る。お前は大切な幼馴染みだ」


はいはい。どうせ私は真田くんにとって大切な幼馴染みに過ぎないんでしょうね。私が学校に行かない理由がお前だって言ったらこいつはどんな顔をするんだろうか。"あんたに彼女ができて、それを見るのが辛い"と言ったら、どんな顔をするのだろう。真田は辛そうな顔をして謝るんだろうな。容易に想像ができてしまう。あー、思い出したらまた泣きそうになってきた。早く帰ってくんないかな。そういえば私が学校に行かなくなって、こいつが私に毎日会いに来るようになってから真田の顔を見ていない。私はそっと布団から顔を出して久しぶりに真田の顔を見た。


「…お前の顔を見るのは、久しぶりだな」
『どうも久しぶり』
「やっと、みょうじと話が出来るな」
『話すことなんかないから帰れ』
「…何故、お前は学校に来なくなったのだ」
『真田に話す事じゃない。言いたくない、それにもう家に来ないで』
「何故だ。急にどうしたんだ。まだ間に合う、まだ、俺達と一緒に卒業出来る。だから、明日から学校に来い。俺はお前と一緒に卒業したい。そして大学も一緒に通いたいのだ」


真田はいたく辛そうな顔をしていた。私だって辛いわ。きっと他人が聞いたら鼻で笑われるような理由だけど、私には死活問題なのだ。ずっと好きだった人に恋人ができて、ずっと一緒だったのに見た事もないような顔を私ではない女の子に向けている真田を見る事なんて私には辛すぎたのだ。高校生のクソガキが愛だの恋だの語るなんておこがましいが、今の私には、ずっと真田を好きだった気持ちは愛であり、恋だったのだ。だから、私は彼を応援するために私は彼の前から消えるのだ。そして私も彼のお互いを忘れて何事もなかったかのように、幼馴染みなんて最初からいなかったようになってしまえ。たかが高校生の私にはそれしか方法が思い付かなかった。わからなかった。


『真田達が卒業したらまた学校には通うし、大学は外部を受ける。それでいいじゃん、お前には関係ないだろ、帰ってください』
「何故、そうやって俺達から、俺から離れようとする?お前は何を考えている、みょうじ」
『…私は、真田の事を只の幼馴染みと思っていた事なんて一度もなかった』

私はそれだけ言うと驚いた顔をしている真田を部屋から追い出し、鍵を閉めた。真田は部屋のドアを叩いていたが、しばらくして音が止み、また明日来る、とだけ言って階段を降りて行った。

(20131109)
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