私は何て事をしてしまったのだろう。今私の目の前に居る、この綺麗な顔をした先程まで名前も知らなかった少年は、長い睫毛を揺らし、身長の割には薄めの胸を上下させすやすやと眠って居る。そう、私はこの少年を、監禁…した…?彼の事を知ったのは2週間程前の事だ。私は、家で仕事をしている所為か余り外出をする事が無く、此処に越してきてから結構経つが自分が住んでいる土地の事を全くと言ってもいい程知らなかった。ある日、仕事が一段落して、身体を休めるためにぐっと伸びをして、窓の外を見ると、がやがやと話しながら同じ制服を来た中学生くらいの子供達が沢山私の家の前を通っていた。私は、そういえばこの近くに私立の学校があったな、確か、立海大付属といったか…。と特に興味も無かったが暫く通り過ぎる子供達の中に、彼は、居た。


彼は数人の友人らしき男子と一緒に歩いていた。皆、テニスバックを持っていたので、恐らく部活仲間なのだろう。何も知らない私から見ても、彼らのグループは周りとは明らかに違い、きっとこの子達はモテるんだろうな、とそう思った。中でもこの少年は私には一際特別に思えた。身長もさる事ながら、中学生らしからぬ落ち着いた雰囲気、きっちりと切り揃えられた髪、伏せるように閉じられた切れ長の目。彼の、一挙手一投足の仕草が私には、色気に感じられた。でも、何か触れてはいけない様な、神聖な物の様な。彼がこの家を通った時間はせいぜい数十秒。だが、私にはこの一瞬がとても長く感じられた。それからは家の外で、立海大の制服を見掛ける度に彼では無いかと、外を見るようになった。そしてある日の事。


「立海大附属中学生徒会、柳蓮二と言います。少しお話させて頂けないでしょうか?」
『は、はぁ…』


彼が突然私のマンションを訪ねて来た。何やら、彼の学校の文化祭でハンドメイドの店を父兄が出店するらしいのだが、何分参加人数も多くなく、父兄達も文化祭に向けて商品を製作しているが、今のままでは数が足りないらしく、近くでハンドメイドを取り扱っているところに商品を置いてみないかと回っているそうな。そしてこのマンションに住んでいる生徒から私がフリーでハンドメイド品を販売していると聞いて相談に来たとの事だ。売りに出すものはハンドメイドなら特に指定も無く、何回か学校とやり取りするだけで当日店に出ることも無いし、もし私の作品が売れればその分の売上げもいくらか頂ける(とは言っても中学の文化祭なのであまり高額に値段設定はできないが)と聞いてまぁ、やってもいいかなと思いその申し出を受ける事にした。

「有難う御座います。では、当日迄の流れを今軽くご説明させていただきたいと思います。直接お会いしたいので下に降りて来て頂いても宜しいでしょうか?」


そう言われて私はそろそろ寒くなっているし、何だからと彼を家にあげる事にした。言い訳がましいようだが、やましい事などこれっぽっちも考えていない。今まで窓からでしか見た事がなかった彼が一体どんな人間なのか純粋に興味があった。しかし、インターホン越しに少し話しただけで彼が見た目同様、年齢に比べかなり大人びていて且つ大層聡明な人なのだと感じた。これでは男の子というよりは立派な男性だ。そうこうしているうちに家のドアのインターホンが一度少し長めに鳴る。彼だろう。私は何だかよくわからない心境でドアを開いた。


「わざわざご自宅にまで押しかけてしまって申し訳ありません。この度のご協力、誠に感謝致します」
『いえ、立ち話も何ですし、リビングにどうぞ』


彼の分のスリッパを取り出し玄関に置くと、引かめえな声で「わざわざありがとうございます」と会釈をされた。やはりこの子は背がとても高い。180センチ以上はあるのではないか。ますます中学生には見えない。リビングについてからはお茶を出して一通り当日迄のやり取り等説明して貰い、それらを詳しくまとめたプリントを何枚か渡された。話も終わったところで柳君が「それと…」と切り出した。


「あと一つ、お聞きしたいのですが、貴女は良く窓から僕を見ていらっしゃいますね」
『えっ!!』
「僕が今日、貴女のところへ来たのはこのマンションに住んでいる生徒に聞いた訳では無く、僕が貴女の事を調べたからなのです」
『どういう…』
「情報収集は得意なもので。僕も、僕を見る貴女の事を見ていた。貴女がどんな人なのか興味があった。だから今日、ここに来た。貴女がどんな人なのか確かめに」


彼の言っている事が全く理解出来ない。彼は私が、窓から見ていた事に気づいていた?!私が彼に男性としての魅力を見出していた事に気づいていた?!私は頭が真っ白になって言葉も出ず、ただただ口をぱくぱくとさせる事しか出来なかった。そんな私を見て彼は意地悪そうに笑い、ポケットから何やら小さな袋を取り出した。


『な、なんですか…それ…』
「睡眠薬です。と言ってもそこまで強力な物ではありませんが、貴女がお茶を淹れてくれている間に服用しました。そろそろ効き目が出てくる頃だと思います。僕は貴女にとても興味があります。僕は今日、学校の帰りにここにくる事は学校側は知っています。僕が眠って目覚めた時、貴女が僕の物になるなら問題ありませんが、もしならないのであれば、僕は貴女に監禁されていたと、報告します」
『待って!意味が解らない!』
「目覚めるのはおそらく一時間から二時間、ではまたお会いしましょう。良いお返事が頂ける事、楽しみにしております。」


彼はそう言ってそのまま体制を崩した。咄嗟に抱きかかえたので床に直撃する事はなかったが体格差がありすぎて私も一緒に倒れる事となった。すーすーと寝息を立てて眠る彼は先程脅迫のような事を言っていた人物と同一なのかと疑う程であった。私は彼が目覚めた時、どちらの答えを選ぶにしても犯罪者になる事は目に見えていた。私はあの日彼を見てしまった事を酷く後悔をしながら、今後他人に少年趣味と蔑まれるかもしれない未来に頭痛を覚えながら彼が目覚めるのを待った。そういえば彼は倒れる前に一言私に呟いていたな。


「僕は欲しい物は力尽くでも手に入れたいのです、まだ、中学生ですから」

(20131213)
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