柳蓮二。私はこの男を初めて見た時に、直感で思った。“この男は私の苦手なタイプだ”と。その直感は直ぐに当たる事となった。この男と初めて会ったのは会社のパーティ。得意先の上役として出席したこの男と、同じ役職である私、お互いの紹介をお互いの上司にされ握手をした。今度この男の会社との共同のイベントを私と彼で仕切る事になったからだ。私は顔が整っているし、背も高く、見た感じは穏やかそうで随分と女性にモテるんだろうなとぼんやり考えてはいたが、握手をした瞬間、嫌な感じがした。何やら背筋が粟立つ様な、そんな悪寒というのか、危機感というのか、どちらにせよ私はこの男から早く離れたいと思った。しかしこの男は上司らが見ていない隙に「お前をいずれ俺は抱く事になるだろうな」と言った。初対面の女に対してだ。私は思わず握っていた手を振り離し、柳蓮二を睨んだ。すると彼は、何もかもを見透かした様な目で、さも楽しそうにくすくすと笑い「一目見て気に入った、気の強い女は嫌いではない。お前が俺に堕ちる日が楽しみだ」と囁き、人混みの中へ消えて行った。それからはパーティが終了するまで一度も柳蓮二との接触は無かったが、私のあの男への第一印象は最悪であった。


それからと言うもの、柳蓮二は人が見ていない所で私をたぶらかす様になった。会議の準備や会議後の後片付け、これは取り仕切る私達の仕事になる。そういった時に二人きりになるとこの男は私に厭らしい言葉を投げかけてくる。「お前は何時俺の物になるのか」「お前は俺が欲しいのだろう」そんな、さも私がこの男に気がある体で話しかけてくるものだから感心する。自意識過剰とはこの事だ。私はくだらないと柳蓮二の言葉を耳に入れず黙々と作業をする。この男は、厭らしい言葉を投げかけてくるが、私には指一本触れない。どうやら私からこの男の誘いに乗って来るのを待っているらしい。私は一生乗ってやるかと聞き流し、興味は無いと言った風にこの男に接する。そう言った事が2ヶ月程過ぎた。


とある会議の差中、私は足に誰かの足が当たるのを感じた。その足はただぶつかったという訳では無く、私の脚をなぞる様にふくらはぎを上下している。私は驚き目を見開くと目の前に座っている柳蓮二が薄く笑いこちらを見ていた。この男が私の脚をなぞっているのだ。初めて会った時から2ヶ月、私をたぶらかす癖に私の身体に指一本触れなかったこの男が。私は何やら言い知れぬ感覚に陥り、ひどいセクシャルハラスメントを受けて居るにも関わらず声を上げるでも無く、いい様にこの男にされるがままだった。

この男の目が初めて見た時から嫌だった。その訳が今分かった気がする。一目見た時に一瞬駆り立てられた欲望を見抜かれたのだ。私はそれを認めず、この男を嫌う事で、己の厭らしい感情を見て見ぬ振りをしたのだ。それを彼に触れられて私は否が応でも認識をせざるを得なくなった。本当は私は初めて会った時からこの男に抱かれたかったのだ。この男が醸し出す雰囲気も仕草も何もかも私の性欲を掻き立てる。そんなはしたない事があってはならない筈なのに自分の感情が止められない。私がもう一度柳蓮二を見ると彼は何時もの見透かした様な目して、声には出さず、口だけで「ようやくだな」と笑った。きっと今夜にでも私はこの男に抱かれるのだろう。もう知ったことか、どうにでもなってしまえ。一目見て気に入っていたのは私の方だったのだ。


(20151018)


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